目の前で見る四天宝寺テニス部のメンバーはなかなかインパクトがあった。
去年の全国大会でもちらっと見て思ったけれど、部長さんがやたらイケメンだ。
「遠路はるばるご苦労だった」
不在の幸村部長の代わりに真田先輩が武将のような貫録でみんなを迎え入れる。
私はちょっとした案内係を仰せつかっていたので、みなさんを更衣室までお連れした。
「姉ちゃん、おおきに! わい、遠山金太郎や。よろしゅう、よろしゅう」
背が小さいけれど元気いっぱいの少年が満面の笑みで自己紹介してくれる。一年生だろう。
ヒョウ柄のタンクトップだ……これぞ大阪の申し子!
「です。よろしくね」
遠山くんに目線を合わせて挨拶した後、顔を上げると視線を感じた。
どこか気だるげでクールな佇まいの男の子と目が合った。
なんだか鷹みたいに鋭い目だ。うわ、ピアスいっぱいついてる!
かっこいいけど、絡まれないようにしよう……。
無視するのも怖いので、会釈だけしておいた。
練習試合は滞りなく進んだ。
うちが強いのは当たり前だけれど、四天宝寺もかなりの強さだ。
去年よりも強いんじゃないだろうか?
ヒョウ柄のコも末恐ろしさを感じるパワーがあるし、ピアスの人も飄々として底が見えない。
実際に全国で当たったら激しい試合になりそうだ。
休憩を挟むことになって、うちからのサービスでスポドリをお配りした。
部長さんに渡すときは緊張してしまったが、「おおきに」と優しい笑顔で返してくれた。
この人、さぞモテるだろうな……。
「どうぞー」
「おおきに、」
「え?」
ピアスの人は怖いので目を合わせないように渡して立ち去ろうと思ったら、いきなり呼び捨てにされて驚いてしまった。
「やろ。俺や」
お、俺? と言われても……。
射るように見つめられ、戸惑ってしまう。
なにも答えられずにいると、彼はハァ、とため息のようなものを吐いてごく小さな音量でハミングし始めた。
音は小さくても、その旋律を聴いた瞬間、全身に鳥肌が立つ。
「光……?」
間違いない、何十回も、もしかしたら何百回も聴いている光の曲だ。
「はじめまして、やな」
「う、うそー!」
思わず叫んでしまった。
光がうるさい、というように眉間に皺を寄せる。
だって、こんな、叫ばずにいられるだろうか。
こんな偶然、まるで……。
「なんや、財前、ナンパか? 珍しいやないか」
私の声のせいで四天宝寺のみなさんが集まってきてしまった。
声を掛けてきたのはやたらと足の速い、忍足さんだ。
「ちゃいます」
光がめんどくさそうに一蹴する。
なんだかメールの印象そのままだ。やっぱり光なんだなぁ。
「あ、あの、私、ファンなんです。光の」
「ファンやて!?」
「余計なこと言うなや。曲のことも」
不意に耳打ちされて、逆らえずに頷いた。
でも私たちの関係って、どう説明すればいいんだろうか……。
「えっと、光とは、メル友なんです。ネットで知り合って」
「ネットでメル友、って……まさか、出会い系か!?」
「財前、いくらなんでもあかんで、出会い系は」
「であいけーって、なにー?」
「金ちゃんは知らんでええ」
あっという間に周囲が騒がしくなった。
これ、どう収拾をつけたらいいんだろうか……。
「、何をしている」
「真田先輩」
騒ぎを聞きつけ、うちの先輩たちまで集まってきてしまった。
うう、なんか怒られそう……。
「俺とが知り合いなんスわ。それでちょっと話をしてただけなんで」
光が助け舟を出してくれる。
真田先輩に面と向かって臆さないなんて、すごい!
「ほう……、四天宝寺に知り合いがいたとは知らなかったぞ」
柳先輩の目が、開いていないのに光ったような気がした。
「おい、、どういうことだよ!」
「あ、切原くん。ねぇ、彼が光だったんだよ!」
切原くんもきっと、びっくりだろう。
事実彼はあっけにとられた表情をした。
「は? 光って……女じゃねぇのか?」
「え!? 女の子だと思ってたの?」
確かに、男の子とも女の子とも言った覚えはない。
光という名前は女の子にもありえるだろう。
切原くんはずっと勘違いしていたんだろうか。
「じゃあ、そいつとずっとメールしてたのかよ?」
「そうなるね」
切原くんに言われて、改めてそうなんだなぁ、と思う。
彼が、あの素晴らしい曲を作った張本人で、たくさんの言葉を交わした光なのだ。
……なんだろう。なんか、どきどきする。
思いがけない出来事に興奮しているんだろうか。
「……おい、アンタ、俺と勝負しろよ」
「き、切原くん?」
切原くんの言葉に、ちょっと別のどきどきに変わった。
はらはらどきどきのどきどきだ。
対して光はクールな瞳で切原くんを見据えている。
「別にええけど」
光ならあしらうように断るかと思ったけれど、気だるげな、どこか冷たい声でそう答えた。
「待て、赤也。勝手な真似は許さん」
「止めないでくださいよ、真田副部長。俺はこいつに圧勝してやる」
切原くんがいまにも赤目になりそうな気配がする。
真田副部長でさえも少したじろぐ気配がした。
「弦一郎、構わないのではないか。なかなか興味深い試合になりそうだ」
柳先輩はみんなを見回しながらそう言って、最後に私を見てふっと微笑んだ。
……なんだろう。なんだか胸がムズムズする……。
「俺からも頼むわ、真田クン。うちの財前がこんなにやる気出しとるんも珍しいし」
私の目にはやる気を出しているようには見えないけれど、部長さんが言うからにはきっとそうなんだろう。
真田先輩は顎に手を当てて考え込むように沈黙していたけれど、次の柳先輩の言葉が決め手となった。
「幸村なら、きっと許しただろう」
「……わかった。試合を許可する。二人は十分後、コートに入れ」
「よっしゃぁ!」
「了解スわ」
こんな展開になってしまうとは。
今日は驚きの連続だ。
それにしても、光と切原くん、私はどっちを応援すればいいんだろう?
二人に交互に視線をさまよさせてしまう。
それぞれと目が合ったけれど、二人とも無言のまま別の方向へと去って行った。
切原くんを追いかける
光を追いかける
赤い炎と青い炎 15.2.27