「わあ、これ……かわいい」

が手に取ったのは雪の結晶がついたネックレスだった。
小さなストーンが散りばめられて、照明に反射してキラキラしている。

「ほう、ええのう。じゃけど、もう時期は外れてしまったのう」

三寒四温という言葉が似つかわしいほどに、もう季節は春に移ろいつつある。
三月十四日の土曜日。
ホワイトデーのこの日、俺は部活の後にを呼び出していた。

「うん……でも、今年は雪が降らないまま春になりそうだから」

雪の結晶を見つめるの瞳は、どこか真剣だ。

「今年の冬は色々なことがあったから。ひとつだけ選んでいいのなら、冬を思い出せるこれがいいな」

にとって辛いこともたくさんあったはずだ。
けれどはそれを忘れたいと思う人間ではない。
雪の結晶に思い出を宿して、これからも抱えていくのだろう。

「それが仁王くんからもらえるものなら、こんなに嬉しいものはないよ」

思わず口を覆いそうになった。顔が少し赤くなっているかもしれない。
ためらわずそう言って微笑むには、まったく敵わない。
バンレタインのお返しに好きなアクセサリーをひとつ選んでくれ、と誘ったとき、
驚いて遠慮するを宥めるのは大変だったが、俺はのこの笑顔を向けて欲しかったのかもしれない。

ネックレスを買う間、俺は思う。
今年の冬は俺にとって、今までで一番大切な冬になった。
たった二ヶ月程度の時間の中で、の存在はどんどん俺の中で大きくなっていった。
今ではが傍にいない日々なんて考えられないほどに。

「待たせたのう」

プレゼント包装は断った。すぐに使うから、とタグを切ってもらったネックレスを、の前に掲げる。

「俺がつけちゃるぜよ。ちょっと後ろ向きんしゃい」
「う、うん」

少し躊躇いながら後ろを向き、そっと髪を前にかき寄せる仕草にどきりとする。
白いうなじに目を奪われながら、シルバーのチェーンを首に回した。
首に触れるとくすぐったいのか、少しの身が震える。

「よし、オッケーなり」
「ありがとう」

は首からさがった雪の結晶に指で触れた。
ようやく降った初雪をそっと慈しむように。
後ろからそれを覗き込みながら、俺はの耳元に囁く。

「可愛いな。よう似合っとる」

途端、耳を押さえてばっと勢いよくが離れた。

。なんで逃げるんじゃ?」
「そ、そういうからかい方はずるいと思う!」

反論するの顔が真っ赤になっていた。
嬉しさと可愛さでくつくつ笑ってしまう。
しかしそうすると花遊はますます不貞腐れた顔をした。

「からかっとらんよ。正直な感想じゃ」
「だから……」

文句を言おうとしたらしい、顔を上げたは俺の表情を見て口を噤む。
俺は心から慈しんでに微笑んでいた。
『からかっている』などと勘違いする余地のないほどに。

「似合っとるよ。きれいじゃ、

は真っ赤になって言葉を失っていた。
たまにはこれくらいしないと、俺を『良いお友達』以上に見てくれないだろう。
俺はに俺を男として意識させる、という決意をしていたのだ。

「……あ、ありがとう」

は俯いたまま、視線だけをこちらに向けて呟くようにそう言った。
意識してないであろうその上目遣いに、参ったな、と心の中で白旗を振る。
これくらいじゃもう意識してくれないだろうけれど、ぽんぽん、と頭を撫でながら声が震えないように言葉を紡ぐ。

「今年はあと少ししかつけられないかもしれんけどな。次の冬にもまたつけて見せてくれるかの」
「うん、もちろん」

遠回しな告白にもならない言葉だったけれど、大きく頷くの反応にどっと安堵した。
春が来て、夏が来て、秋が来て、また冬に巡る。
またの傍で、俺は次の冬を迎えたい。

はまた雪の結晶にそっと触れながら視線を落とす。
今年の冬を思い出すとき、俺のことはどんな風に思い出しくれるのだろうか。
今度それを聞くときには、今よりももっと近い距離で教えて欲しいと願う。


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たまには/囁く/正直  11.1.25