『好きだ』

携帯の画面に書かれた、その三文字をじっと見つめる。
言葉にしても一瞬のそれは、しかしとんでもないほどの重みを持っていた。

「……ふーっ」

長く細く息を吐き、CLRボタンを長押しした。
to欄にはすっかり見慣れたの名前。
空白に戻った画面をしばらく見つめてから、もう一度ゆっくりと、一つずつ丁寧にボタンを押していく。

『好いとうよ』

さっきより二文字長くなった言葉。
やっぱりこっちの方が俺らしいだろうか。
はどっちの言葉で言われた方が嬉しいだろう。

「……」

間違えて送信ボタンを押さないように、細心の注意を払ってメールを保存した。
もう一度深く長くため息を吐きながら、携帯を胸に押し当てるように抱え込む。
携帯越しにもどくどくと心臓が高鳴っているのがわかった。

「乙女か、俺は……」

はっと正気に戻ったようにベッドから身体を起こす。
暗がりの中、前にロフトで買った星型の蛍光シールが壁で青白く光っているのをぼんやりと眺める。
寝付けない。

『じゃあ、オッケーなのか?』
『もちろんだよ』

今日盗み聞いたたちのやり取りを思い出す度、それが勘違いだとわかったにも関わらず胸がざわついた。
参った。ここまで引きずるとは思わなかった。
だが吐き気がして呼吸が苦しくなるほどの絶望を感じたのだから、それも当然なのかもしれない。

告白について考える。
本当に告げるときはもちろん、メールじゃなくて直接口から言うつもりだ。

だがまだ言う時期ではないような気がした。
100%逃げではないと言いきれないが、それだけじゃない。

俺は好きになったらどんな手段を使ってでも相手から告白させてみせる、と思っていた。
だがいざのことを想うと、そんな考えは吹き飛ぶ。
そこまでの余裕がまるでないのだ。

一度福山雅治にかこつけて「好き」と言わせようとしたことがあったが、もちろん本気で言わせられるとは思っていなかった。
しかもその時ですら結局、の返答に俺は馬鹿みたいに赤くなってしまったのだ。
最終的には俺が情けなくみっともない告白をするだろう、ほとんど確信めいた予感があった。

だが勝率はなるべく上げておきたい。
が俺に好意を持っているのは間違いない、自惚れでなくそう思う。
でもそれが恋愛感情かというと、答えは限りなくNOだろう。
幸いなことにか残念なことにか、俺は結構人の感情を正確に読み取るのが得意だ。
正直、今のままでは「良いお友達」で終わる自信がある。
しかしそうやって告げないでいるうちに、今日のようなことが本当に起きてしまったら間違いなく後悔するだろう。

反面、こうも思う。
は彼氏と別れたばかりだ。
今日は何を考える余裕もなくあの会話を聞いてしまったので疑問に思わなかったけれど、あいつは誰かと別れていくらもしないうちに新しい彼氏を作るようなタイプには思えない。
つまり、もし誰かに告白されても断るんじゃないだろうか。

「……難しいもんじゃのう」

悩み疲れ、起き上げていた上半身をぼふ、とベッドに沈め直す。
告白をされても断るとして、しかしそれは当然俺相手にも言えることだった。
今はまだもう少し、時間が経つのを待った方がいいのかもしれない。

ずっと握りしめたままだった携帯を開き、からのメールを遡って見ていく。
最初はどきどきしていたが、だんだんと穏やかな気分になってきて、俺はいつの間にか眠ることが出来た。


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好き/胸/言えない  10.1.3