俺の席は窓際の一番後ろ。から後ろに三つ、仁王からは後ろに一つ、横に二つで、つまり二人の様子がよく見える位置にある。
だからがテニス部をよく見に来るようになってからは結構しょっちゅう観察してたりした。
とは言っても、あいつらは教室ではほとんどしゃべらねえ。
今じゃメールもして毎日一緒に帰っているほどなのに、何も知らないクラスメイトから見たらあいつらが仲良くなってるなんて全然わからないだろう。

そんなある日だった。
俺は休み時間中に自分の席で食玩の新しいプラモデルを組み立てていた。
目を向けなくてもわかる、仁王は机に顔を伏せて寝ている。まあ、いつもの光景だ。
は前の席の星谷と雑誌を見ているようだった。珍しくはしゃいでいる感じがする。

プラモを弄りながら聞くともなしに教室のざわめきを聞いていると、不意に「……雅治!」というの声が耳に飛び込んできた。
え、なになに、あいつらいつの間に名前で呼び合ってたのかよ!?
驚いて思わず勢い良く顔を上げる。
だけどは相変わらず前を向いて雑誌を見ているようだった。
不思議に思いながら仁王の方を見ると、ちょうど起き上がって席を立つところだった。
やべえ、これちょっと面白いことになってきたんじゃねえ?

。なに見てるんじゃ」

仁王がの席の隣に立って話しかけていた。
はびっくりしたみたいに仁王を見上げたが、その前にいる星谷の方がびっくりしていた。
なにしろ仁王がクラスメイトの女子に自分から声を掛けること自体稀だ。
席が端の方だったからそれほど注目されてないが、周りのやつはやっぱりちょっと驚いているみたいだった。

「えっと、テレビ雑誌だよ」
「なんか面白い番組でもやるんかの?」
「面白いっていうか、今度の新ドラマに福山雅治がでるの」

指先は動かしつつ前方の話に耳を傾けていると、なるほど! と俺は思った。
雅治、っていうのは仁王のことじゃなくて、福山雅治のことだったのか。
つーかあれ、仁王もぜってえ勘違いして話しかけに行ったんだろ。うわ、だっせー! あとで赤也にも報告してやろ!

「好きなんか。福山雅治」
「う、うん。好きだよ」
「ふーん。どの辺が?」
「えっと、かっこいいなって」

なんだかはちょっと答えづらそうだ。
でも俺も意外だったかも、あいつってミーハーな雰囲気全然しねえし。

「ほう。で、仁王雅治は?」
「え!?」

ぶっ! 俺は危うく噴きそうになった。
仁王のやつ、よく聞けんなあんなこと……! さすがっつーか、なんつーか……。

「えっと、あの……うん、仁王雅治くんもかっこいいと思うよ」
「それだけか?」
「えっ!? その、それから……」

おいおいおい、あいつまさか「好き」って言わせる気じゃねーだろうな?
たとえ恋愛感情抜きだとしても言いづらいだろ、そりゃ……。
俺はちょっとに同情した。
と、が不意に顔をあげて仁王に微笑みかける。

「仁王くんは、天使みたい」
「……」
「あ、ご、ごめんね、変なこと言って」
「……いや。俺こそおかしなこと聞いて悪かったの」

すげえ……俺、仁王が赤くなんの初めて見たかも。
もさっきから赤いけど、天使みたい、って言ったときの微笑み方はかなりマジだった。
……つーか、あの二人の周りだけなんか空気がおかしい。
さっきまでとはしゃいでいた星谷もすっかりぽかんとしながら二人を見ていた。
その二人はお互い顔を赤くしながら俯き合ってるし、だあっもう、見てるこっちが恥ずいっつーの!

チャイムが鳴って二人ともようやく我に返り、仁王はそそくさと自分の席に戻っていった。
にやにや笑ってやろうと思ってじーっと視線を送ってみたけど気づきもしねえ。無視してんのかもしんねーけど!

あいつらさっさと付き合っちまえばいいのに、とほとんど進まなかったプラモを片しながら勝手に俺は思った。
でも仁王はともかく、は仁王のことをどう思ってるんだろう。
仁王のことを天使みたい、と答えたときのあいつの表情を思い出す。
好意的なのは確かだけど、恋愛感情とは違うものだったような気がする。

ちら、と仁王の背中を見ると頬杖をつきながらの方に顔を向けていた。……あれ、無意識か?
仁王がもし今はのことを好きだったとして、でも今からだと逆に苦戦するんじゃねえかな、と俺は思った。
まあなんにせよ、この二人の動向からはますます目が離せねえな。
三学期はこれから面白くなりそうだぜ。
机の下で赤也にメールを打ちながら、顔がにやけるのをおさえるのに必死だった。


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雑誌/嫉妬/好き  09.9.14