「あれ? 仁王先輩、メールしてるんスか?」

休日の部活にも相変わらず先輩たちはテニスをしに来ていた。
最初はちょっと嬉しくて、途中でウザくなってきて、今はもう諦めた。
今日もレギュラーの先輩たちが勢ぞろいしている部活中、休憩時間に珍しい光景を見た。
この人携帯持ってたっけ、というほど弄っている姿を見たことがなかった仁王先輩が小さい画面に向かって熱心にボタンを打っている。

「なんだよ仁王、お前昨日俺にメール返さなかったくせによー」

丸井先輩がドーナツを食いながら文句を言って近づくと、仁王先輩はバコン! とすごい勢いで携帯を閉じた。
……怪しい。ひょっとして女じゃねえの?

「丸井。俺は豚の丸焼きにもタコの踊り食いにも興味はなか」
「だったらそう返しゃいいだろぃ! お前ってほんっとすぐ連絡途絶えるよな」

丸井先輩、あのメールテニス部に一斉送信してたみたいだからな……。
今どっちが食いたいか、というその質問に俺はまとめて食うっス! と返信した。ちなみに返事はなかった。

「で、誰にメールしてたんだよ?」
「それ俺も気になるっス!」

丸井先輩と顔を合わせると先輩もニヤニヤしていた。
俺はこの間から放課後も練習を見に来るようになった例の結構きれいな先輩じゃないかと思うんだけど、丸井先輩もたぶん同じことを考えている。

何しろこの前仁王先輩があの人と一緒に帰っているところを目撃してしまったのだ!
ちなみにそれを見たときソッコーで丸井先輩にメールした。
音でバレそうだから写メは撮れなかったけど。

「……お前さんたち、他の奴らには秘密だぞ」
「うんうん。絶対しゃべんないっス」
「大船に乗ったつもりで話してみろぃ」

もしかしてもう付き合ってんのかな? 仁王先輩手ぇ早そうだし、それもあるかもしれない。
丸井先輩と二人して仁王先輩に近寄る。
頭を三つ突き合せるようにしていたとき、

『ドッガーン!!』

「うわああああ!」
「ぎゃああ!」

な、なんだなんだ!?
何が爆発したんだ!?

「おっと、メールが届いたようだのう」
「な、なんスか仁王先輩! 今の先輩の着信音っスか!?」
「ったく、変なのに設定してんじゃねえよ! マジでびびったじゃねえか!」
「ははは。ちょっと爆弾魔と友達になってな。わかりやすいじゃろ」
「お前たち! 騒がしいぞ! もう休憩は終わりだ、さっさとコートに戻れ!」
「う、ういっス! 真田元副部長!」

ちくしょー、結局聞き出せなかったじゃん!
仁王先輩はひと足早くひょうひょうと部室を出ていくところで、俺は丸井先輩と肩をすくめ合うしかなかった。
でもぜってー相手はあの人だ! 間違いねえ!



まったく油断してしまった。
メールを打っているときの表情までは見られなかったが、たぶんかなり頬が緩んでいた。

アドレスを交換してから時折やり取りしているとのメールは他愛のないものばかりだったが、一言ずつのそれがやけに心地よかった。
「明日も晴れみたいじゃ」とメールをすれば「絶好のテニス日和だね」と返ってくる、本当にその程度だったがのやわらかい微笑みを一緒に思い出すと心が和んだ。

一度だけ夜に「泣いてないか」とメールをしたら、五分後に笑顔の絵文字だけのメールが返ってきた。
のメールに絵文字が入っていたのはそれが初めてで、だがそれが意味するところは結局本当にはわからない。
辛かったらいつでも連絡しろ、と告げたときに黙して頷いたは決して俺を頼らないだろう。
だが些細なメールをしているときのの文章はとても落ち着いていて、安心できた。

「仁王、良かったな」
「……なんのことじゃ、柳」

丸井と赤也の追跡をかわしたあと、どうにも避けきれそうにない参謀が確信的に微笑んでくる。

「ずいぶんとかわいい爆弾魔じゃないか?」
「否定はせんよ」

どうせ柳にはなにもかもお見通しだ。
……というか、放課後にを連れてきた時点である程度の反応は覚悟していた。
最近おとなしくなった、と思った丸井がまた騒ぎ始めたのも想定の範囲内だ。
少し面倒だが、に実害がないならそこまで問題でもない。

「だが気をつけてやれ」
「……ああ」

柳はたぶん、の元カレのことを言っているのだろう。
確かにあいつがもう一度つっかかってきたとしてもおかしくはない。
が一緒ならまた俺を止めるだろう。
だがきっと、退いてはいけないときもある。

この後は高校テニス部と合同練習だ。
終わったら試合に勝った、とメールをしよう。
そう思うといつもよりなんだか気合も入った。

「仁王くん。爆弾魔と友達になるのは、あるいは友達を爆弾魔と呼ぶのは良くないと思いますよ」
「……あー、そうじゃのう、ほんにお前の言う通りじゃ、柳生」

真剣な顔で唐突にそう声を掛けてきた柳生に、俺と柳は同時に笑い声を返した。


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メール/甘/からかい  09.8.13