「柳、ちょっといいか」
名目は自主練だったが引退前とそう変わらない放課後の部活中、休憩しているときに声をかけてきたのは仁王だった。
「ああ。どうした」
少し改まったような態度が仁王にしては珍しい。
意識しているかどうかはわからないが、聞いている人間がいないか周囲にちらと目をやってから仁王は続けた。
「お前さんのクラスに外部受験するやつ、おる?」
「男子に一人いるが」
「そいつ、どんなやつかの」
顔には出さないように、俺は少し驚いた。仁王が他人に興味を示すとは珍しい。
しかしなんだか居心地が悪そうだ。とりあえず理由は追及せず、質問に答えてやることにする。
「俺はそれほど話をしたことがないが、そうだな、真面目で優秀なやつだ。友人も多いし面倒見は良い。ただ少し高慢というか、他人を見下しているところはあるようだが」
「なるほどのう」
そいつは頼まれれば宿題を見せてやったが、あとできっちりジュースなりパンなりを奢らせるしたたかさも持ち合わせていた。
別に悪人というわけではないが、教師の前では従順な優等生でもかげでは馬鹿にしているタイプだった。
ちなみにこれは特に仁王に言うことでもないが、彼より成績の良いせいだろう、俺は一方的に敵視されていた。
「受験のせいで最近はひどく機嫌が悪いようだ」
少し考えてそれだけを付け足す。最近の彼は話しかけてきたクラスメイトもほとんど無視するようにあしらって、休み時間もずっと勉強していた。
それからもうひとつ、彼に関して思い出す。もしかしたらこれが一番仁王と関係のあることなのかもしれない。
このタイミングだ、今朝仁王が部活をサボったことの原因である可能性も高い。
「それから確か、他のクラスに恋人がいたな」
仁王は少しぎくっ、としたように見えた。逸らされていた視線がさらに逃げる。これは当たりか。
あえて他のクラス、という言い方をしたが、相手はわかっている。仁王のクラスの。
F組では彼らのカップルは有名だった。が放課後よく恋人を迎えに来ていたのだ。
やつは廊下に彼女がいるのを知りながらわざと友人と談笑して待たせたりしていた。
は随分と惚れこんでいるようだったが、つまり彼はそういう人間だったのだ。
「お前が他人に興味を持つとはめずらしいな、仁王。朝練をサボったことと何か関係があるのか?」
「さてな」
視線をそらされたまま一言ではぐらかされただけだったが、真実とみて間違いはないだろう。
これ以上追及するのも意地が悪いか。まあいい、と薄く笑うに留める。
予想するに、おそらくはやつに振られたのだろう。冬休み前からなんとなく破局の気配はあった。
は慕い続けていたのだろうが、廊下に立つ彼女を見てもやつは面倒くさそうな顔をするだけだった。
仁王はたまたま、朝教室に行くときにでも泣いている彼女に出くわしたのかもしれない。
面倒なことが嫌いなくせに女の涙には妙に弱いやつだから、朝練をサボって慰めていた、というところだろう。
「参考になったナリ。どうもな」
「ああ。気にするな」
実際気にしてほしくないのは仁王の方だろう。
これ以上しゃべってボロが出ることを恐れたのか、仁王は黙したまま手をあげて去った。
「ふむ」
しかし、面白いデータが採れたな、と思う。
仁王が女子を慰めるだけなら別にそこまで意外なわけではないが、必要以上の興味を持ったなら話は別だ。
いずれもっと面白いことになるかもしれない。しばらく様子を見よう。
頭の隅にそう走り書きした。
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友達/恋人/話 09.3.3