『そういや、神奈川やろ。立海って知っとる?』

お風呂から上がって習慣のようにケータイの画面をのぞくと、光からメールが届いていた。
なんで光が立海の話をするんだろう?
不思議に思いながら返信する。

『私、立海だよ』
『ホンマか。狭すぎやろ、世間』

それだけぱっと返ってきて、しばらく待ってみても続きはない。
とりあえずハテナマークの絵文字を送っておいた。
なんだろう、気になる……。

私は光のファンだった。
彼に会ったことはない。
ネットにアップされた彼の曲に惚れ込んで、メッセージを送ったのが始まりだ。
同じ学年、趣味が合う、テニス部とテニス部のマネージャなど共通するところが次々見つかり、メールのやり取りをするようになった。

毎日ではないけれど、良い曲や映画を見つけたときなどにお互いにメッセージを送りあう。
最近ではふとした雑談なんかをすることも増えていた。

寝る準備をしながら気にしていたけど、結局返事はこなかった。
まあ、気が向いたらそのうち話してくれるだろう。
なんとなくわかってきたが、彼は結構面倒くさがりで気まぐれなところがある。
おやすみ〜とメールを送り、光の曲を再生しながらベッドに潜った。


次の日の部活が終わっても、光からのメールはこなかった。
なんだか無性に気になる……。

、マック寄ってかねぇ?」

切原くんから声を掛けられて、画面から目を離した。

「えー? また夜ごはん食べられなくなっちゃうよ」

ケータイをポケットにしまいながら、前に切原くんや先輩たちに誘われるままマックに行ったときのことを思い出す。
ハンバーガーこそ食べなかったものの、ポテトを食べ過ぎてお腹いっぱいになってしまった。
夜ごはんを大量に残してお母さんに怒られたのだ。

はジュースだけにすればいいだろ、俺奢るし」
「えっ! ほんと?」

切原くんがそんなことを言ってくれるのは初めてだ!
せっかくだから、お言葉に甘えてしまおうかしら。

「でも、ジュースだけで我慢できるかなぁ……」
「俺のポテトちょっと分けてやるよ」

それでついつい、食べ過ぎちゃうんだけど。
まだ渋っていると、切原くんが縋るような目をしてきた。

「なっ、頼むよ、。一人でマックってのも微妙だろ? 先輩たちもいねーし」

やけに熱心なのはそういうことか。
切原くんはいつも丸井先輩やジャッカル先輩と寄り道することが多いけれど、今日は三年生だけでミーティングをしている。

「そこまでいうなら、行こ」
「サンキュー! じゃ、行こうぜ」

うかな、と最後まで言い終わらない内に、切原くんはぱっと笑顔になった。
つい少し笑ってしまいながらうん、と頷き返し、切原くんについていく。

、ジュースはどれにすんの?」
「ほんとに奢ってくれるの?」
「任せとけって」
「じゃあ、白ぶどうでお願いします」
「了解。待ってろ」

店内は結構混んでいた。
カウンター席を2つ確保してから切原くんがレジに向かう。
手持無沙汰になった私はポケットからケータイを取り出した。
相変わらず光からの連絡はない。

『マックなう』
『マクドやろ』

おもむろにつぶやくと、なんと速攻でつっこみが返ってきた。
普段ボケてみても冷たく返されることが多いけれど、今回は無視できなかったみたい。

『こっちはたこ焼き屋』
『いいな〜本場のたこ焼き』

「また『光』?」

短いやり取りをしていると、切原くんがトレーを掲げて戻ってきた。
山盛りのポテトを見てやっぱり食欲がそそられてしまう。

「うん。またたこ焼き屋にいるんだって」

あ、そう、と切原くんは興味が無さそうに返事をして隣に座る。
ジュースを私の前に置き、ポテトをこちらに向けてくれた。
ケータイを閉じて、ポテトに向き直った。

「ありがとう。いただきまーす」

切原くんはもうハンバーガーにかぶりついていた。
これでこの後夜ごはんを普通に食べるというのだから、男の子ってすごい。

「そういえば光、立海のこと知ってるみたいだよ」
「ああ、テニス部ならそりゃ知ってるだろ」

それもそうか。なにしろうちは全国二連覇校だ。

切原くんには光のことを話している。
前に光とメールをしていたとき画面が目に入ったらしく、聞かれたことがあるのだ。

「そういや、今度の練習試合には四天宝寺が来るらしいけど」
「ああ、大阪の……去年準決勝で当たったところだね」

大阪の四天宝寺か。
もしかして、光が……。

「ま、『光』とは関係ねーだろ」
「それもそうだね」

一瞬思い浮かんだ私の考えを遮るように、切原くんが言った。
たまたまメールをするようになった相手が練習試合に来るなんて、そんなびっくりな偶然はいくらなんでも起こらないだろう。
起こったら、運命感じちゃうかも、なんて。
そんな考えも、ポテトを食べているうちにどんどん薄くなっていった。

「おい、食い過ぎ! また晩飯食えなくなるって!」
「うっ……でも、止まらないー!」

結局私は光に『四天宝寺って知ってる?』と聞くことも、世間の狭さを感じた光の真意を聞かされることもなく、練習試合の当日を迎えることになる。


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マックとマクド   15.2.21