「昨日、みんなで話せたおかげでだいぶ気分が楽になったよ」
夏の延長戦が続く、終わりのない青空を見上げる日曜日。
本来ならオフだったが引退した俺たち三年と後輩の慣例試合があり、無事終わった後は例によっていつものメンバーが賑やかに残っていた。
「おい赤也、まだ水こねぇよ!」
「これでも目いっぱい捻ってるっスよ!」
空よりも大げさな青色のホースをぶんぶんと丸井が振り回し、それが繋がった蛇口の前で赤也は自分の首も捻っていた。
俺とは少し離れて肩を並べ、また二人だけにしか共有できない話をしていた。
「それはなによりじゃ」
「ちょっと、心苦しいんだけどね。私なんて本当は何にもしてないのに、みんな受け入れていてくれて」
横目で盗み見たは騒ぎ立てる赤也たちを眩しそうに見ながらそう言った。
昨日サイゼで思った通り、はあいつらの気持ちが作られたものであると気にしているらしい。
「気にせん方がええ。そのままのお前さんがあいつらに受け入れられてる、ってことじゃろ」
あいつらの記憶の中のが果たしてここにいると同一人物なのか、その確証がある訳ではない。
だがもしここにいるが本当にマネージャーをしていれば、やっぱりあいつらの信頼を得ていたのではないだろうか。
「……ありがとう。また元気づけられちゃったね」
は俺の方に顔を向けてふふふ、と笑った。
確かにかなり気分は落ち着いてきているようだ。
「お! きたきた!」
丸井の持つホースのシャワー口から溢れだした水が、あっという間に噴き出す。
それが空に向けられると、見事に虹ができた。
「わっ、きれい」
「わーっ! 丸井先輩、タンマ、ストップ、めっちゃ水掛かってるっスー!」
が隣で呟き、赤也が頭を手で覆いながら叫んだ。
丸井はホースを振り回しながら楽しそうにぎゃははと笑っている。
「冷たくて気持ちいーだろぃ!」
「うおっ、ブン太、こっち向けんな!」
丸井の動きを読んでいたらしい柳がさっと逃げると、シャワーはジャッカルだけを襲った。
「丸井先輩も涼しくさせてやるっスよ!」
すでにびしょびしょになった赤也が丸井の懐に切り込んでいく。
「うわっ、バカ、やめろ赤也!」
ホースの奪い合いで水がでたらめに飛び散っていく。
……嫌な予感がした。
「あっ、やべぇ!」
「危ない!」
「えっ……」
「!」
予感が的中し、暴走したホースが思い切りこっちを向く。
めがけて飛んでいく水の中に、俺は飛び込んだ。
涼しさを感じる暇もなく、背中から一気に水を浴びる。
丸井たちが手を離してホースが地に落ちるまでに、ずぶ濡れになるには十分だった。
「わ、悪ぃ!」
「すんません!」
丸井と赤也は急いで蛇口を閉めに掛かっていた。
俺は咄嗟に抱きしめてかばっていたを解放した。
冷たい水を浴びた背中とは正反対に、とぴたりとくっついていた胸元が熱い。
「水、掛からんかったか?」
「わ、私は大丈夫」
ふぅ。かばった甲斐があったみたいじゃの。
髪の毛にだけ少ししぶきが掛かっていて、それを軽く払ってやる。
はくすぐったそうに身じろぎした。
「仁王くんはびしょびしょだね……。ごめんね、ありがとう」
「水も滴るイイ男、じゃろう」
笑って返してやると、も笑顔を見せた。
「うん! すごくかっこいいよ」
「……そう素直に返されると照れるナリ」
炎天下、水の匂いを感じながら、俺たちはなんだか可笑しくなって思い切り笑い合った。
と出会った日に、屋上で笑い合ったように。
「ま、丸井先輩、仁王先輩たちおかしくなっちゃったっス……」
「お、おう……。仕方ねぇ、あとでアイスでも奢ってやるか」
俺たちは、大きな秘密と暑い夏の終わりを、どこまでも共有していた。
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マーメイド・ダンス 12.3.2