夕陽の沈みゆく海沿いの通学路をさんと並んで歩く。
つい顔を並んで歩く彼女とは反対側に向けてしまうが、一緒に帰るというまさしく恋人らしいシチュエーションが本当はすごく嬉しかった。
「一緒に帰ろう」と誘ってくれたのはさんだった。
けれど俺は遅くまでテニス部がある、そんなに待たせる訳にはいかなかったが、彼女は「待つのって嫌いじゃないんだ」と微笑んだ。
ぽつりぽつりと猫の話なんかをしながら肩を並べて歩く。
俺はそれだけで信じられないくらい幸せだったが、彼女はどうだろうか?
不安が影をさして彼女の方を見たときに、ちょうどさんも俺を見上げてどきりとした。
「ねぇ、仁王くんていつから私のこと好きだったの?」
「それは……」
なかなか恥ずかしくて答えにくい質問だったが、上目遣いに期待されては誤魔化す言葉も思い浮かばなかった。
観念してせめて視線は外してから話し出す。
「二年のときじゃ。屋上でシャボン玉を吹きながら、時々下を見ていての。誰も上なんか見ないですたすた歩いとったけど、ふと立ち止まった女子がいたんじゃ」
さんはうん、と頷いて耳を傾ける。
「彼女はこっちを向いて、笑顔で手を振ってきた。……もちろん、俺じゃなくてきっと下の階の誰かに手を振ったんじゃろう。けど、それから彼女のことが気になって、見かけたら目で追うようになってのう」
気になる、から始まった感情はいいな、に変わって、いつの間にか好きになっていた。
直接接点が合ったわけじゃない。
けれどやわらかい笑顔や日なたのような雰囲気、俺にはないものを持っている彼女にごく自然に惹かれていったのだ。
「ねぇ、私それ、覚えてるよ」
「なに?」
ここまで話してしまってから、照れ隠しにどうしようかというところに、さんも少し恥ずかしそうにしながら告白を始めた。
「私、一年のときから仁王くんのことが気になってたの。銀髪で、猫背でしょう? 最初は不思議な人だなぁ、って思ってたんだけど、仁王くんが歩いていると遠くからでもわかって。何度も見かけるうちに、なんだか猫みたいだなぁ、って思って気になってきたの」
さんにとってそれがきっかけだったらしい。
……なんだかちょっと複雑な気もするが、銀髪と猫背でよかったナリ。
「仁王くんが屋上から私を見たっていうとき、確かに私は校舎の窓から友達に呼ばれて上を見たんだけど、屋上に仁王くんがいることにすぐ気づいたよ。友達に手を振りながら、仁王くんのことも見てた。そしたら、シャボン玉がたくさん空に浮かびあがっていって、仁王くんがすごくきらきらして見えたの」
それからさんも、いつしか俺を好きだと思うようになったらしい。
それじゃぁあの日、俺たちはお互いそうとは知らずに見つめ合っていたわけか。
口には出せないが、改めて運命的なものを感じて鼓動が高鳴った。
「仁王くんのことを気になってたのは私の方が先だね」
さんはそう言って微笑んだが、時期はそうでも間違いなく俺の方が重症だ。
さんと別れた後、じっと自分の手を見つめる。
告白のときに握手ができたのだから、きっとすぐに手を繋ぐこともできるだろう、そう思った手は結局、時々ふわふわと空気を掴むことしかできなかった。
けれど心は馬鹿みたいに満たされている。
明日は手を繋げるだろうか。
早く会いたくてたまらなかった。
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行き場の無い手 11.11.16