次の授業はサボろうといつものように屋上へ向かう道すがら、聞き慣れた声と聞き逃す訳のない声が聞こえてきた。
つい一瞬身を隠そうか、などと思ってしまったが、戻ることも進むこともできずに立ち止まっている間に声の主は降りてきてしまった。

「おや、仁王君。こんなところでどうしたのですか?」
「お前さんたちこそ何しとるんじゃ?」

随分楽しそうだったのう、と余計なひと言を付け加えそうになって思い留まる。
柳生も、柳生の隣に立つさんもダンボール箱を抱えていた。
大方日直の仕事か何かなのだろう。
この程度で嫉妬したなんて思われたら柳生に何を言われるかわからん。

「私たちは今日日直なので、授業で使う資料を運んでいるところです」
「そうか。それはご苦労さまじゃのう」

予想通りの答えが返ってきた。
こっちのことは適当に誤魔化そうと思ったが、さんの前とはいえ真面目な柳生が追求してこない訳がなかった。

「仁王君はまたサボりですか? この前も音楽の授業をサボっていたと丸井君に聞きましたよ」
「丸井のやつ、余計なことを……。音楽は聴く方専門なんじゃ。大体授業でやるような曲は好きじゃなか」
「好き嫌いの問題ではないでしょう。体調も悪くないのに授業を休むのはよくありませんよ」
「あぁ、うるさいのう。お前は俺の母さんか?」

頼むからさんの前で情けない話をするな、と叫びたいのが本音だった。
柳生のことだから眼鏡を直しながら「自業自得でしょう」なんて言うだけだろうが。
さん、俺に幻滅しとるんじゃないだろうか。
怖くて顔も見れなかったが、ふと降りてきたのは柔らかい笑い声だった。

「ふふっ。柳生くんと仁王くんて、ほんとに仲良いんだね」
「……そう見えるか?」
「うん。なんか、バランス良いなって思うよ」

確かに俺と柳生の性格は正反対で、だからこそ気が合っていると言えるだろう。
さんにそういう風に言ってもらえるのは、ちゃんと俺のことを見てもらえいるようでものすごく嬉しかった。
だがその嬉しさを素直に表に出せないのが我ながら難儀なところだ。

「まぁ、今回は柳生に免じて戻るぜよ」
「まったく、調子が良いのですから」
「ふふっ」
「……さん、それ貸しんしゃい」

さんの返事を待たず、微笑んでいる彼女の腕からダンボール箱を奪うようにする。
断じてわざとではないが、少し指が触れた瞬間心臓が跳ねた。

「わっ、仁王くん、いいよ。私の仕事だし」
「どうせA組は通り道じゃ。これくらいせんとまた柳生に睨まれるしの」
さん、彼に任せて構いませんよ。本人が好きでやっているのですから」
「そ、そう? じゃぁ、悪いけどお願いします」
「あ、あぁ。気にしなさんな」

柳生のやつ、意味は違えど本人の前で「好き」なんて言うな、心臓に悪い。
さんを挟んで三人で歩きながら、こんな風に彼女と並んで歩くのは初めてだな、としみじみ噛みしめる。
柳生は同じクラスというだけで席が隣になったり一緒に日直を出来たりするのだから、まったく羨ましいものだ。できるなら俺と代わって欲しいくらいだ。
……ん? やろうとで思えばできるか、俺なら。

「仁王くん、ありがとう」

そんなことを考えているうちに、すぐにA組に着いてしまった。
結局たいして話もできんかったのう。
何の話をすればいいかわからず、柳生に任せっぱなしになってしまった。
けれどさんがお礼を言いながら微笑んでくれただけで、俺はいっぱいいっぱいに満たされてしまう。

「構わんよ。教科書の礼もまだじゃったしの」
「そんなの、気にしなくてよかったのに。でも助かったよ、ありがとう」

資料を渡すとき、今度は指が触れなかったのが少し残念だった。
教室に入っていくさんと柳生を見送る。
もうすぐにチャイムがなるだろう。
このまま屋上への道を戻ってもよかったが、俺は素直に教室に向かった。
高揚した気分も授業を受けていた方が落ち着くだろう。
また考えるのはさんのことばかりになってしまいそうだが。


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お前は俺のお母さんか?  11.9.20