教室の入口にひょっこりと顔を出した彼女の姿を見た瞬間、鼓動が高鳴った。
なんでこのクラスに来とるんじゃろう。
友達に用事だろうか、……男だったらどうしよう。
不安に思っていると、よりにもよって扉の近くにいた丸井と話し初めて心臓が痛くなってくる。
「仁王! 呼んでるぞ」
しかし丸井がこっちを振り向くなり大声で俺を呼んで、一瞬どうしたらいいかわからなくなった。
……いや、どうするもなにも、行くしかないんじゃけど。
さっきから視線を外せなかったその場所にゆっくりと向かう。
いかん、なんじゃこの緊張感。
「……なんじゃ?」
緊張しすぎてそっけない態度になってしまった。
しかしさんはやわらかな笑顔で話しかけてくれる。
「柳生くんが仁王くんにこれ渡しといて欲しい、って。柳生くんと真田くん、委員会の用事で部活遅れるみたいだよ」
さんから渡されたのは昨日柳生に貸したグリップテープだった。
手が震えていることに気づいて受け取った瞬間ばっと引っ込めてしまう。
さんに驚いた顔をさせてしまった。
……柳生のやつ、気を利かせてくれたつもりだろうが、さんが来る前にメールの一本でも入れておいてくれればまだ心の準備ができたものを。
「あ、ああ。サンキューな。わざわざすまんの」
今度は無愛想になりすぎないよう、笑ってみたつもりだった。
目は全く合わせられんかったが。
「仁王くん、大丈夫? どこか体調悪いの?」
しかしその笑顔があまりに弱々しかったらしい。
さんが心配してくれて思いきりときめいてしまったが、自分が情けなさすぎる。
「……いや、大丈夫じゃ。なんともないぜよ」
「そう? ならいいんだけど」
「ん。どうもな」
話せたのは本当に嬉しいが、そろそろ限界だ。
一歩後ろに下がりながらもう一度礼だけ言う。
さんは「ううん、じゃあね」と笑って手を振ってくれた。
こっちも精一杯小さく手を振り返し、去っていくさんを見送る。
「……ふぅ」
息が止まっていたようにすら感じて、大きくため息をもらしてしまった。
さんとちゃんと話をしたのはこれが始めてだ。
まだ心臓がばくばくしていて、手に汗をかいている。
「仁王お前、苦手なの?」
そんなときに背後から丸井に声をかけられ、思わずびくりとしてしまった。
……驚かせおって。
それにどうやら、俺とさんのやり取りを見ていたらしい。
「いいや、別に」
「ふうん? ま、いいけど」
丸井はいつものように風船ガムを膨らませ、すたすたと去っていく。
端から見れば苦手なように見えたのか。
……けれど、むしろ好きすぎるんだ、なんてもちろん言えなかった。
さんから手渡されたグリップテープをぎゅっと握りしめる。
俺も今日、このテープでグリップを張り替えよう。
そうすればなんだか、テニスももっと上手くいきそうな気がする。
頬が緩んでいることに気付いて、慌てて唇を引き結んだ。
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弱々しい笑顔 11.9.18