冬晴れっていうのは、どうにも目に痛い。
冬休みが明けてから数日、三学期は天気に恵まれて始まった。
晴れればいいってもんじゃないと思うんだがの。
コートのポケットに両手を突っ込みながら、朝から律儀に輝く太陽に目を細めた。
通学路にはまだほとんど人がいない。一般の生徒が登校してくるのは一時間ほど後だろう。
引退後、テニス部の三年がさっぱりとコートをあとにしたかというと、そうではなかった。
高等学校でもテニスを続ける連中は引き続き練習が許されていた。
もちろん優先されるのは後輩だったが、なんだかんだと練習がてら指導が続く。
レギュラー陣は俺も含めて結局毎日のように顔を出していたから、夏までとあまりかわりはない。
新部長の赤也はまだ真田や幸村から解放されないことを嘆いていたが、この頃やっと部長っぽさが板についてきたようで、それをからかうのも楽しみのひとつだった。
エスカレーター式だから卒業も引退も、それほど感慨が深いわけではない。
惰性のような三学期。大した変化のない日常が続いていくのだろう。
教室に向かう道すがら、校内の自販機で飲み物を買っていくのが日課になっていた。
コインを入れていつも通りホットのブラックコーヒーを押すが、騒がしく落ちてきたのはなぜかホットココアだった。
朝から甘いモンを口にする気にはなれんのじゃが……。
見渡しても交換する相手がいるわけじゃない。仕方ない。
プルタブを起こしてノドに流し込んだココアは予想以上に甘かった。
コートから戻るときに荷物を持って走るのが嫌だから、いつも席に置いてから行く。
新学期に入ってからはずっと一番乗りだった教室に、だが今日は先客がいた。
窓際の前から二番目で、そいつはノートと参考書を広げていた。
「おはよう」
「おはようさん」
挨拶くらいしようかと口を開きかけたとき、先を越された。
それだけを交わして自分の席に向かう。
こっちもすぐノートに目を戻したから横に二つ、後ろに二つ。
机に荷物を置いたらあとはコートに向かうだけだ。
さて行くかと思ったとき、片手に持ったままだったココアの存在を思い出す。
途中で捨てようと思っていたが。
斜め前、頬杖をつくの背中をちらと見てちょうどいい、と思った。
教室の扉に向かう前に、の席に近づく。
「これ、飲まん?」
卒業を間近に控えたこの時期になってほとんど話したことのない相手だった。
はテニス部に興味を持っていなかったようだし、自身も特に目立つところのあるやつじゃなかった。
一度くらい隣の席になったこともあったかもしれないが、たぶんお互いほとんど記憶に残っていないだろう。
こんな機会でもなければ、きっとこのまま一言も話さずに卒業したであろう相手。
が顔をあげるまでの束の間、そんなことを思った。
「いいの?」
「一口しか飲んどらんから。捨てるのも勿体ないじゃろ」
面倒なのでホットココアが出てきた経緯は省いたが、も特には気にしていないようだった。
整ったノートが広がる机の端に、コンと缶を置く。
は少しの間、俺と缶との間で視線をさ迷わせていた。
……まあ、間接キスになるからのう。
俺は別に気にしないが、女子なら気になるのかもしれない。
無理強いするつもりはない。嫌ならいいんじゃ、と謝ろうとしたとき、はシンプルなシャーペンを置いてココアを手に取った。
あったかい、と呟く。
「ありがとう。いただきます」
ほんの少しだけ笑い、缶に口をつけた。
甘くておいしい、月並みな感想をこぼした後にもう一度、ありがとうと目を合わせてくる。
「どういたしまして」
人の顔をまっすぐ見ると素直になれない俺は、視線をちょっと外してから答えた。
あとは無言で席を離れ、教室を出ていく。
扉から出るときになんとなく振り向いたら、が白い咽喉を反らしてホットココアを飲んでいた。
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1.二人で飲むホットココア 09.1.29