「精市、これ」

昼休み、精市のクラスを訪れてラッピングの包みを渡す。
今日は色んなクラスで、特にテニス部相手にはよく見かける光景となっているだろう。

「ハッピーバレンタイン。あんまり自信ないけど、一応作ってみました」

精市は毎年とんでもない数のチョコレートをもらうので、かさばらないよう小振りにしてみた。
もちろん愛はたっぷり詰まっている……なんて恥ずかしくて口には出せないけれど。

「ありがとう。大事にいただくよ」

精市は微笑んで受け取ってくれた。
さすがにもらい慣れてるなあ。ちょっとせつなくなる。
でも今日いちいち嫉妬をしていては身が持たない。私も笑顔を崩さず手渡した。

「それじゃあね」

精市は今日はまだまだ忙しいだろう。
廊下を見渡せば周りにもチョコレートらしき包みを持った女の子が待っている。
無事渡せたことだし早々に立ち去ろうと、手を振りながら歩き出す。

「待ちなよ、

けれど、精市に腕を掴まれ呼び止められた。
振り向いた瞬間背筋が寒くなった。
精市の笑顔、さっきと違って黒い笑顔になってる……!

「お前は俺の何だい?」
「な、なにって……その、恋人、だよね」

精市の質問の意図がわからず、戸惑いながら答えてしまう。
そんな弱気な態度がお気に召さなかったのか、腕を掴む力が一瞬強くなった。

「そうだね。は俺の恋人だ」

精市の笑顔が怖くて思わず視線を逸らす。
精市にチョコレートを渡すために待っているのであろう女の子や、通りすがりの人たちが不思議そうな顔で私たちの成り行きを見守っている。

「これはもちろん嬉しいよ。でも恋人なんだからこれくらい当然だ。ねえ

あげたばかりのチョコレートを目の前に掲げる精市から言いようのないプレッシャーを感じる。
まだまだ寒い冬の日だというのに汗が流れそうだ。もちろん冷たい汗だけど。

「チョコレートだけで済むとでも?」

腕を引かれ、精市の唇が耳を掠めるくらいの距離で囁かれた。
全身に鳥肌が立つように身体が震える。
恐怖と快感が稲妻のように一瞬で駆け抜けた。

「おいで」

精市はそのまま私の手を引いて早足に歩き出した。
足がもつれそうになりながら、必死についていく。
心臓の早鐘が止まらない。恐れからなのかときめきからなのかもうわからなかった。


ペースを落とさないまま歩き続け、私の息は少し切れていた。
屋上庭園に上がり精市が鍵を任されている管理小屋に入ると、投げ出すように手を放された。
カチリ、と内側から鍵を掛ける音が背中越しに聞こえた。
振り返ると、精市は微塵の疲れも見せずに薄く微笑んでいる。
手に持っていたチョコレートの包みがすとん、と制服のポケットに落とされる。

「精市、ちょっと、どうしたの?」

答えが返ってくるとは思えないとわかっていながらそう聞かずにはいられない。
案の定精市は私の問いに答えず、木製のベンチに有無を言わさず押し倒してきた。

は俺が他の女の子からチョコをもらっても気にならないのかい?」

逆光になった精市の口元は微笑んでいるけれど、目がまったく笑っていなかった。
思わず唾を飲み込む。
精市がとても怒っている、という事実に血の気が引いていく。

「き、気にならない訳ないじゃない。でも、イベントごとだからしょうがな、!!」

反論は最後までさせてもらえなかった。
いきなり下着の中から秘部に指をつっこまれたのだ。
実はさっき耳元で囁かれたときから濡れていたのがバレてしまった!
あまりの恥ずかしさに腕で顔を覆う。

「へえ、それで納得できちゃうんだ。俺への愛情ってそんなものだったのかい?」
「ひ、やっ……!」

指でぐちゅぐちゅと中を掻きまわされて耐えきれず声を上げながら身を捩る。
それでも精市の言葉を否定したくて、なんとか緩慢に首を振るう。

性器の突起をなんども撫でられて身悶えながら口に手をあて、あえぎ声を我慢した。
生理的な涙がにじみ出てもうダメ、というところでチャイムが鳴る。

「おっと、時間切れだね」

精市はあっさりと指を引っこ抜いて立ち上がった。
きっと最初からここでする気はなかったのだろう。
最後までイかせてくれないことを含めて、精市の大好きなおしおきプレイだ。

「精市、私は精市のことを信じているから……」

目にたまった涙が肌を滑るのを感じながら、まだ起き上がれないまま必死に告げようとする。
精市はとても恐ろしい面を持っているけれど、とても優しい人でもある。
好意で差し出されたチョコレートを無下にはしないだろう。
けれど、本命のチョコに対しては丁寧に断るはずだ。
私はそう信じていたから、精市が他の女の子からチョコレートをもらっても耐えることができた。

「ふふっ。わかっているよ」

そんな私の内心なんて、本当は全部お見通しだったらしい。
楽しそうな笑顔で差し出される精市の手を脱力しながら取った。

手を繋いだまま教室に戻り、廊下で別れるとき、精市は自分を待っていたチョコを持つ女の子たちのいる前で堂々と私にキスをした。


「幸村君、今年はチョコいくつもらった? 今年も幸村君には負けただろうな」
「一個だよ」
「えっ!?」

は気付いていなかったようだけれど、以外からのチョコは義理でも本命でも全て断っていた。
俺にはのしか必要なかったから。
に言った通り、チョコレートだけでは済まさせないけれどね。
昼の続きをどうしようか、と楽しく考えながら、まだ驚いているらしい丸井をコートに追い立てた。


ヴァレンタイン  チョコレートだけですむとでも?   ハーケンクロイツ
11.2.14