蓮二は意外なことにキスが好きだった。
手を繋ぐことも好きだったし、抱きしめることも好きだった。
私はもちろん嬉しかったけれど、蓮二はもっとさっぱりした付き合いを求める人だと思っていたから驚いたのも本当だった。
「ああ、それは自分でも少し意外だったな」
正直な気持ちを蓮二に告げると、彼はいつもみたいに綺麗に微笑みながらそう答えた。
「そうなの?」
「ああ。付き合うまでは抑止が効いていたが、恋人になってみると我慢できなくなった。俺は触れたいときに触れるし、キスしたいときにするぞ」
「……知ってる」
そう答えた途端、またちゅ、と軽い口付けが降ってくる。
さすがに人前で思い切り、というようなことはしないけれど、ちょっと離れたところなら平気でしてくる。
部活中の休憩時間に木陰でされたりすると、誰かに見られるんじゃないかと私の方がドキドキしてしまう。
でも蓮二は全然平気そうだった。
「いや、人目につくのは少しもったいないからわざわざ木陰に移動している。お前の甘い顔は俺だけが見られればいい」
「そんな理由なの?」
「ふふ、悪いか?」
蓮二はそう言って私の腰を抱き寄せて、頬に唇にとキスしてくる。
「そばにいれば触れたくなる。手を繋げば抱きしめたくなるし、抱きしめれば口付けしたくなる。口付けしたらもっと触れたくなる」
そう言って蓮二は、私の制服の中に少しだけ手を触れた。
ひんやりとした指先が素肌に触れてびくりと身体が反応してしまう。
「んっ……」
「あまりそういう声を出すな。我慢できなくなるだろう? 少なくとも中学を卒業するまではこれ以上手を出すつもりはないのだからな」
「なんか蓮二、先生みたい……」
同い年のはずなのに、教え子に手を出すのはまだ早い、と思っている先生みたいだ。
蓮二はちょっと悲しそうに困った顔をした。
まずい、傷つけちゃったかな?
「そういうことを言うのなら、今すぐ押し倒しても構わないのだが。たやすく可能だからな」
「わっ」
そう言って蓮二はわざわざ実践してみてくれた。
普段は壊れものを扱うみたいにやさしく触れてくれるけれど、実際蓮二が力ずくで私をどうにかしようと思ったのなら本当に簡単なことなんだろう。
「でも蓮二、それは脅しにならないよ。私は抵抗しないから」
蓮二に覆い被さられたまま、身体中の力を抜く。
心臓だけがどきどきしていたけれど、嫌だとか怖いとかそういった感情はまったくなかった。
「……いや、俺が悪かった。頼むからあまり可愛いことを言わないでくれ。まったく、お前にはかなわないな」
蓮二は私を強い力で拘束していた手首を唇で撫で、静かに身体を起こした。
それから私のことも軽く引っ張って起こしてくれる。
「私こそごめんね、蓮二。でも私は蓮二が先生でも年下でもおじいちゃんでも、きっと好きになったと思う」
素直な想いを口にしたら蓮二は一目でわかるほどさっと赤くなった。
彼がそこまで照れるのは珍しいことで、私はなんだかおかしくなって笑ってしまう。
「……笑わないでくれ。嬉しかったのだからな。俺もお前がどんな存在だろうと、きっと愛したよ」
「それって人間じゃなくても、ってこと?」
「フッ、そうだな。だが少なくともこうして実体のあるもので助かった」
そう言って蓮二はまたキスをしてくる。
今度は水音がするくらいだんだんと濃厚になって、私はやっぱり蓮二と同じ人間で良かった、とそう思った。
(……いくら昼休みの部室だからって、あいつらいちゃいちゃしすぎじゃねえ?)
(まあ二人とも真面目な人間じゃからの、チャイムが鳴る前には出ていくじゃろ)
(俺早くモンハンやりたかったけど、なんか色々ショックすぎてどうでもよくなったっス……)
開きっぱなしだった部室の窓の外で丸井くんと仁王くんと切原くんがそんな会話を交わしていることなど、私は知る由もないのだった。
……蓮二はどうだかわからないけど!