「それじゃまたねー」
「電話、白石か?」
「わっ……仁王くん、聞いてたの?」
やましいことがあるのか単に驚いたのか、声を掛けるとはびくりと震えながら振り向いた。
……まあ、やましいと思ってもらえるような仲じゃないんだが。まだ、のう。
「聞こえたんじゃ。こんなところで電話する方が悪い」
「屋上はいいでしょ……っていうか仁王くん、またサボってたね?」
「さあのう」
視線を空の方に逸らす。
チャイムが鳴って授業が終わったか、と思ったらが駆け込んできた。
話しながら入ってきたから友達と一緒なのかと思ったら、相手はここからずっと西のあいつだった。
クラノスケクラノスケ、と連呼するのでイラついたが、我慢したおかげで電話の内容は大体わかった。
「大阪、行くんか」
「ばっちり聞いてたね……。行くよ、冬休み中にね。久しぶりだなあ」
が楽しそうに笑うのを見るのは好きだが、理由が理由なだけに複雑な気持ちになる。
昔住んでいた場所に戻るのが楽しみなのか、それとも幼なじみの白石に会えるのが楽しみなのか。
ものすごく気になったが、聞くに聞けん……。
少し的を外して探ってみるか。
「白石と会うのは久しぶりか?」
「うん。全国大会でこっち来てたときにちょっと会ったけど、あんまりゆっくりできなかったからね」
四天宝寺と青学の試合を観に行ったとき、四天の応援席にを見つけて本当に驚いた。
他人の空似かと思ったが、席を離れたときに追いかけたらやっぱりだった。
「蔵ノ介の応援に来たの」と言われた瞬間、目の前が真っ暗になったものだ。
恋人ではなく幼なじみだということが発覚して大分安心したが。
「なにか蔵ノ介に伝言があったら聞いとくよ」
「……俺も行こうかのう、大阪」
「えっ!? ……仁王くん、そんなに蔵ノ介に会いたいの?」
「……」
どうやら本気の困惑顔で首をかしげるの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。
やめてよー! と頭を守ろうとすると手が触れ、嬉しくなって思わずはは、と笑ってしまった。
『、おい、!』
「……ん? なんか聞こえんか?」
「え? 別になにも……」
『ー!』
「わっ!? 蔵ノ介!?」
「……電話、切れてなかったんじゃな」
が開いたまま手に持っていた携帯を慌てて耳に当てる。
後ろを向いて白石と話す背中を見つめながら、今度は堂々と聞き耳を立てた。
『一緒におるの、もしかして仁王クンか?』
「うん、そうだよ。屋上で電話してたんだけど、授業サボってた仁王くんがいたの」
「余計なことは言わんでいい」
思わずつっこむと、が振り向いて楽しそうに笑う。
その笑い声はもちろん白石にも聞こえているだろう。
「え? いいけど……ちょっと待ってて」
それがいきなりきょとんとした顔になると、は俺に自分の携帯を差し出してきた。
……そういうことか。
「仁王くん、蔵ノ介が仁王くんにかわってくれ、って」
「なんじゃろな」
用件は大体想像できるな、と思いながら電話に出る。
さて、こっちはどう牽制してやるか。
『よう仁王クン、全国以来やな。元気にやっとるか?』
「おかげさんでな。楽しくやっとるよ」
『はは、そらよかったわ。が世話になっとるみたいやな』
自分の方がと親しい、という言いようと呼び捨てについ反応してしまいそうになる。
ちらとに視線を向けると、不思議そうに首を傾げてこちらを見ている仕草が可愛かった。
「まあな。懐いてくれとって可愛いぜよ」
『……やっぱり仁王クンは手強いなあ。せやけどそう簡単に負けへんで』
「今んところデュースじゃろ。俺も負ける気はない」
『はは、お互い頑張ろな。大阪来るんやったら歓迎するで。俺との仲にショック受けるかもしれへんけどな』
「それはお前の方かもしれんぞ。それじゃに電話返すぜよ」
『ちょ、ちょい待ちや、仁王クン! 今何て……』
白石の焦った声から耳を離し、通話を切った。
済まなそうな顔を作ってからに振り返る。
「すまん、間違えて切っちゃったナリ」
「ああ、いいよいいよ。用は終わってたし。テニスの話でもしてたの?」
デュースだの負けないだの言っていたからそう思ったのだろう。
携帯を手渡しながら頷いておく。
「そんなところじゃ。大阪で勝負しよう、ってな」
「えっ!? ほんとに行くの!?」
「はは。が良ければな」
「……あ、うん、え?」
肯定というよりは、名前で呼ばれたことに驚いたのだろう。
少し顔が赤くなっている気がするのが気のせいでなければ嬉しいが。
遠くの幼なじみか、付き合いは短いが近くにいる俺か。
不利有利はどちらにもあるが、とりあえず一歩リードかの。アドバンテージレシーバーじゃ。
頭を撫でながら俺のことも雅治でええから、と言うと、は今度こそはっきりと顔を赤くした。
大阪LOVER 11.2.17
♪大阪LOVER / Dreams Come True