「俺を惚れさせてみな」
ぽかんと大口をあけ呆然とした私の顔はさぞ馬鹿面に見えたことだろう。
でも私正直、跡部くんよりは全然馬鹿じゃないと思う。
「忍足くん……跡部くんって、ちょっと頭の弱い人なんだね」
「」とまた呼び止められ、すっと嫌な予感はしたけれど振り向いてしまった。
昨日と同じように目の前にはキング・跡部様が立ち塞がっていた。
跡部くんは開口一番、私の理解を超える言動をする。
あまりのセリフに口をあけてぼけっとすることしかできない私に、跡部くんは昨日思わず感動してしまったあのきれいな微笑をして私の頭を撫でた。
「……うんうん、それで、さんはどないしたんや」
「逃げた」
この人、ちょっとおかしい。
怒りを通り越して怖くなった私は、頭に乗る彼の手を振り払うように駆け出した。
「当然の反応やな」
「だよね。よかった」
同じテニス部といっても、忍足くんの感覚は跡部くんと違って普通らしかった。
私は安心して跡部くんの奇行を相談できる。
「上に立つ人って、あれくらいぶっ飛んでないといけないのかな」
「いや、まあ……あいつは特別やろ」
なるほど。やっぱり跡部くんはおかしいのだ。
忍足くんもさすがにフォローのしようがなかったようで、腕を組んでうーんと唸りはじめてしまった。
特別な部長のもと、苦労して部活動を行っているのだろう。同情する。
「忍足くんも大変だと思うけど、頑張ってね」
「あ、ああ。おおきにな」
私の相談には乗ってくれるけど、忍足くんは跡部くんの愚痴のひとつもこぼさない。
彼が黙って耐えるというのなら、私はかげながら見守ろう。
お礼を言ってすぐに難しい顔に戻ってしまった忍足くんを、私はまた心の中で応援した。
「跡部、アカンて!」
「なんだ、忍足」
さんの頭を撫でたからか、昨日よりさらにご満悦気味の跡部に、俺はつっこまずにいられなかった。
「さんドン引きしとったで。ええ加減にせんとほんまに嫌われるで」
跡部はタオルで汗を拭き、無言で俺を睨む。
俺は正論を言ってるのにこれやもんな。なんかむなしいな……。
「お前、随分と仲が良いみたいじゃねえか。アーン?」
「そらクラスが一緒で席も隣なら話もするわ」
そんでもって俺がさんとしている話といえば、もっぱらお前のことや、跡部。
お前がさんに変なことさえ言わなければ、俺も激励されるほど親近感は持たれなかっただろう。
しかしあっという間に機嫌の悪くなった跡部には何を言っても無駄そうだった。
「コートに入れ、忍足。久々に俺が相手をしてやる」
げっ。キレた跡部と打ち合いなんてしたない。
けどどうせ、俺に拒否権はないんやろうな……。
かわいそうに、さんも本当に面倒なやつに目をつけられたものだ。
「それから忍足、お前明日をここまで連れてこい。俺様の美技に見惚れさせてやる」
跡部はどうやら本気で、さんに迷惑がられているとは思っていないらしい。
さん、嫌がるやろなあ。頼んだところで来てくれるんやろか。
今からさんの反応を想像してため息を吐いていると、「返事はどうした!」と怒鳴られる。
はいはい、って返しながら俺は中三にして中間管理職の辛さを痛感していた。
自信家な彼のセリフ 2.俺を惚れさせてみな 確かに恋だった様
08.12.14