「お前、彼氏いないだろ?」

初めて話した彼の第一声は、それだった。



「忍足くん……跡部くんってすごく失礼な人だね」

いきなり廊下で「」とフルネームで呼び止められ、目の前に立ち塞がったキング・跡部様。
私は脳内で一瞬走馬灯のように彼に何か失礼をした覚えがないか回想を試みたが、遠目にする以外で接触した記憶すらなかった。
自分で呼び止めておきながらなぜか驚いた顔をしたあと、跡部くんはフッと微笑み、(あ、きれいな表情だな)と感動した私に対して例の一言を浴びせた。

「……それでさん、どないしたん?」
「逃げた」

同じクラスの忍足くんなら跡部くんと仲が良いはずだ。
ちょうど今は席もとなりだったので、私は跡部くんとの出来事と彼に対する印象を語ってみた。

「あかん……ダメダメや」
「逃げちゃダメだった?」

忍足くんは悩ましげにため息をついてダメだしをした。
確かに私は一言も返さず、くるっと背を向けて一目散に逃げ出してしまった。
その反応こそ失礼だったかもしれない。……いや、でもどう考えても悪いのは跡部くんだろう。

さんはワルない。あかんのは跡部や」
「だよねー」

だいたい逃げなかったとして、私はどんな反応をすればよかったのか。
彼氏もいないどうしようもない女ですすみませんと謝ればよかったのだろうか。ばかな。

「跡部くんって部長だし生徒会長だし、なにかと上に立つ人だからすごく立派なのかと思ってた」

少なくとも、初対面の人間に失礼な発言をするような人が上に立てると私は思わない。
跡部くんはカリスマ性があるようで慕われているし、ファンもすごく多い。唯我独尊みたいなところがある感じはしていたけれど、それでも礼儀は当然のようにわきまえていると思っていたのだ。

「悪いヤツやないんやで」

忍足くんは困った顔で笑いながら跡部くんをフォローする。
跡部くんと長い時間一緒に過ごしている彼が言うのだから、そうなのかもしれない。
でも私の中ですっかり、跡部くんは失礼な人として認識されてしまった。



「跡部、お前アホやろ」
「アーン? 何だと、忍足」

放課後の部活で、俺はさっそく跡部を詰った。
今日の跡部は見るからに機嫌が良かった。……たぶん、さんと話が出来たからだろう。
そう考えるとかわいいやつだが、跡部の機嫌の良さとは反比例してさんの印象は悪くなっているのだ。

さん怒っとったで。『跡部くんは失礼な人だ』って」
「ハッ。照れ隠しだろう。俺様に話しかけられて嬉しくないわけがねえ。なあ、樺地」
「ウス」

……唯我独尊もここまでくると羨ましい。めでたいやっちゃ。
だが跡部にこのまま軌道修正するつもりがないのなら、さんに嫌われるのも時間の問題だ。……いや、もう手遅れか。

「とにかく、あんま変なこと言わん方がええで。さんは常識人やからな」
「フン、忍足。てめえにの何がわかるってんだ。無駄口叩いてねえで練習しろ」
「はいはい」

こりゃ何を言っても無駄やな。ごめんさん、俺にできるのは同情くらいや。


自信家な彼のセリフ 1.お前、彼氏いないだろ?  確かに恋だった
08.12.14