「誕生日おめでとう」
「ありがとう、弦一郎。これ、もらっていいの?」
「当然だ。お前のために選んだものだからな」
弦一郎から受け取ったのはきれいにラッピングされた小さな包みだった。
彼からのプレゼント、なんだろう。正直な話予想がつかない。
もし竹刀や能面なんかをもらっても喜べるように覚悟と練習はしてきたけれど、この大きさならその心配はなさそうだ。
「わ、かわいい……!」
やぶれないように慎重に包装を解いて、心から驚いてしまった。
弦一郎からのプレゼントはなんと、ジルスチュアートのルージュだったのだ!
コスメブランドの中でもきらきらと愛らしいそこの、さらに可愛らしい桃色のルージュ。
「わあ、ほんとに嬉しい……ありがとう、弦一郎!」
「う、うむ。そこまで喜んでもらえたなら本望だ」
私は自分の目がいま相当きらめいている自信がある。
対して弦一郎は、なんだかちょっときまりが悪そうだ。
……そういえばこれ、弦一郎が自分で買ったんだよね? ……ジルスチュアートで。
どんな顔で買ったんだろう……。きっと恥ずかしいのを我慢して買ってくれたんだろうなあ。
「買うの大変だったでしょう? 無理させちゃってごめんね」
「む、無理などしておらん!」
「ほんとに? でもよくこれを買おうと思ったね」
少なくとも最初から弦一郎の発想にあったわけではないだろう。
たぶん、幸村くんあたりに聞いたんじゃないだろうか。
「いや、俺は竹刀や漆器なんかがいいんじゃないかと思ったんだが……精市がな」
……やっぱり。これはあとで幸村くんにもお礼を言っておくべきかな。
弦一郎からのプレゼントならなんでも嬉しいのは確かだけれど、竹刀や漆器じゃ本当に反応に困っていただろう。
それに弦一郎からルージュがもらえるなんて思っていなかったから、良い意味でかなりのサプライズになった。
「幸村くんに相談したの?」
「ああ。俺の希望を伝えたら、なぜかひどく怒らせたようでな……」
そこで弦一郎はブルッと身体を震わせた。
……顔色も悪くなっている。幸村くんが相当怖かったのだろう。
「いくつか候補を挙げてもらったのだが、それが一番買いやすかった」
「他にはどんな候補があったの?」
弦一郎にとってはコスメを買うのもかなりの試練だったはずだ。
それを上回る候補、となるとどんなものなのか気になってしまう。
「……やたらでかい熊のぬいぐるみや、なんだったか、メード服? だったか。指輪などまだ早いし、それから……ぐっ」
「どうしたの、大丈夫?」
弦一郎はなにを思い出したのか、いきなり唸り、それから気づけば真っ赤になっていた。
……本当になにを思い出したんだろう。ていうか幸村くん、なにを候補にあげたんだろう。
彼の様子からすると、下着かなにかだったのかもしれない。
そもそもメイド服が入ってるあたり完全に遊んでるしな……。弦一郎に変な好奇心がなくて良かった。そんなものをもらったら、竹刀以上に反応に困っていたかも。
「これくらい、なんともない……!」
「そ、そう? ならいんだけど。とにかく、ありがとう! そうやって悩んでくれたのもすごく嬉しいよ」
「う、うむ。お前が喜んでくれるのが一番だからな。悩んだ甲斐があったというものだ。精市にも感謝せねばな」
「そうだね。でも今はとりあえず、弦一郎に早速お返ししちゃおうかな」
「お返しだと? そんなものは必要ない」
弦一郎の言葉を無視して、もらったばかりのルージュを早速唇に押し当てる。
鏡がないからちょっとずれてるかもしれないけれど、すぐにとれるからかまわない。
「どうかな?」
「ああ。その……」
「似合ってる?」
「とてもよく似合っている。やはりお前にはその色を選んで正解だったな。……か、可愛いぞ、」
耳どころか首まで真っ赤にして照れながら、弦一郎は私を褒めてくれた。
厳しいところも多いひとだけれど、こういうところは本当にかわいいと思う。
私のために頑張って慣れない買い物をしてくれたり、それにこの愛らしい色は彼が選んでくれたのだ。
愛しさがどんどんあふれ出てくる。
「ありがとう、弦一郎。大好き」
うんと背伸びして、日焼けした首に腕を回して、その唇にキスをする。
「っ……!」
不意打ちに弦一郎は一瞬逃げようとしたけれど、ぎゅっと抱きしめて離さない。
すると今度は腰に腕が回ってきて、私たちは何度もキスを繰り返した。
「あははっ、弦一郎の唇、ちょっとピンクがついちゃってる」
しばらく見つめあっていたけれど、たまらなく笑いだしてしまった。
弦一郎が困ったような顔をして、でもなかなか笑いはおさまらない。
「……ならお前が舐めとってくれればいい」
「えっ?」
その笑顔はちょっと獰猛、と思っているうちにあっという間に呼吸さえ奪われた。
ぬるりと入ってきた舌に否応なく応戦させられ、私も懸命に動かすしかなかった。
すっかりルージュのとれた唇で、けれど淡く色づいた吐息が水音とともにもれ続ける。
弦一郎のくれたプレゼントはまるで、私たちの幸せの色そのものを表しているようだった。