「あ……ブン太がアイスだ」
「……なに言ってんの、お前」
「暑すぎて頭がおかしくなりそう……私にもアイスちょうだい」
女テニのスコートを着て炎天下をふらふら歩いていたが日焼けした手を差し出してくる。
さすがにいくら日焼け止めを塗っても夏は防ぎようがないらしい。
半袖の先からのぞく肩の白さを見ればそれも一目瞭然だった。
「ばーか。誰がやるかっての。こいつは俺のだ」
これみよがしに手に持っていたソーダ味のアイスにがぶりついてやる。
は物欲しそうな顔を隠そうともせず「ああー……」と唸った。
こいつはほんと反応が素直で面白い。
「その袋の中身も全部アイスでしょ? 一本くらいいいじゃない、お金ならちゃんと払うし」
「俺はこれでも足りないくらいだっつうの。自分で買ってくりゃあいいだろぃ」
「購買部まで歩いたらたどり着く前に死ぬ」
「だったら諦めろぃ」
「ううー……あ、仁王くん」
の目が次の獲物を狙うように光った。
……あいつ、マジだな。
「どうした、」
「そのアイス、一口でもいいのでください」
「おー、ぎらぎらしとるのう。口移しならいいぜよ」
「……仁王くんそれマジで引くから」
かっこいいからってなんでも許されると思ったら大間違いよ、とは気が立ってきたのかやけに低い声で呟いた。まあ、若干褒めてるけどな、それ。
仁王がそういう風にからかうのってだけなんだけど、あいつは気づいていないだろう。仁王も不憫なやつだ。
「ソーダ味のキスってのも爽やかでいいもんじゃろ」
「仁王くんがそういうこと言ってもなぜかちっとも爽やか、って気がしないよね」
「それ俺も同感」
カルピスのCMに仁王くんが出たらカルピスのイメージが変わっちゃうと思うの、とやけに真剣にが言い出した。
……まあこいつにはこいつなりのこだわりがあるんだろう。よくわかんねえけど。
「あ、切原くん!」
の目が新たな獲物をとらえたらしい。
あっという間に赤也のもとへ駆け寄ったを仁王が少し早足で追っていった。
ちょっとおもしれえことになりそうじゃん?
三つ目のアイスをあけながら俺もついていく。
「先輩。どうしたんスか、そんなに急いで。……っつーかなんか目、据わってません?」
「そのアイス、ちょうだい! 一口でもいいから!」
「これっスか? いいっスよ、一口なら」
「おお、切原くん……! 君こそ立海男子テニス部の天使だ……!」
赤也が天使ぃ? ぎゃはは! マジうける、それ。
でも笑ってるのは俺だけで、仁王の方を見るとすげえ不満そうというか、不安そうというか、そんな顔をしていた。
さっきさっさと素直にあげてりゃよかったのに。
こいつ、ちょっとモテるからって余裕こきすぎなんじゃねーの。
「じゃ、どうぞ、先輩。あーん」
「あーん!」
「」
「ん? ……っんぐ!」
あーん、とか言ってる赤也もちょっと調子に乗ってんだろう。
さて仁王はどうするかな、と思っていたら横からがっとの顎を掴んで無理矢理自分の方を向かせて、……マジで口移ししやがった!
つまり、キスだ。それもかなり濃厚っぽい。
うっわー……マジでやるとは思わなかった……。
「え……? ちょ、な、なにしてんスか? え、ええー……?」
赤也は動揺しまくって、溶けだしているアイスが手にだらだら垂れているのにも気づいていないみたいだった。
……まあ無理もねえな。
「……どうじゃ、。美味いじゃろ」
たっぷり数秒後、やっとを解放した仁王がしてやったり、な笑顔で問いかけたけれど、はなんか目の焦点が合っていない。
しかも炎天下でただでさえ赤かった顔の色がもっと赤みを増し、ついにはぐらぐら揺れて倒れてしまった。
「おっと」
「先輩!」
当然それを支えたのは仁王で、べったり抱きかかえたまま、と呼んで確かめていたがどうやら気を失ってしまったらしい。
「保健室に運んでくる。丸井、休憩が終わったら真田と女テニにも伝えておいてくれ」
「それはいいけどよ……お前、あんまし変なことすんなよ」
「気を失った相手に手を出すような真似はせんよ」
目覚めた後が怖い、って話じゃねえの?
あーあ、まあ頑張れよ、。
ある意味自業自得だしな。
「え、ていうかなんすかこの展開? 仁王先輩と先輩って、え……? あれ……?」
ひとりついていけていない赤也はが倒れたときにアイスも落としちまってるし(マジでもったいない)、のことを気に入ってたみたいだから内心すげえショックを受けているんだろう。
仕方がないからほら行くぞ、と赤也を引っ張りながらあとのことは仁王に任せてやることにした。
見事カップル成立、なんてことになったら俺もたまにはアイスの一本くらい恵んでやっかな。
もちろん二人に一本だけやる、ってのは意地悪なんかじゃなく、愛のこもった祝福、ってやつだ。
……赤也には慰めの意味で恵んでやるかもしんねーけど。