その人は絶対に私と目を合わせようとしなかった。
「ねえ、仁王くんまたあんたのこと見てるよ」
「……わかってるよ」
りっちゃんに言われなくてもとっくに気づいてる。
壁際の仁王くんが窓際の私を見ている。
教室っていうのは案外狭いもので、昼休みまっただ中の今みたいに人があんまりいなければ周りの状況は余計にわかりやすい。
机にうつぶせた顔をこちらに向け、じーっと見ている仁王くんの視線になど、簡単に気づくことができるのだ。
「やっぱりあんたのこと好きなんじゃないの?」
「でもさ、こう、視線を返すと……」
意識しながらもわざと避けていた視線を仁王くんに向けると、途端に彼は反対側に顔を向けた。
……。なんなのかなあ……。
「ほらね、絶対目を合わせようとしないんだよ? 私は単なる嫌がらせだと思うけど」
ただ仁王くんが関心もない相手にちょっかい(これがちょっかいと言えるのかは疑問だけど)を出すとも思えないので、よっぽど私のことが好きか嫌いかのどちらかなのだろう。
ちなみに私は後者だと思っている。
なぜなら好かれる理由がわからないからだ。
「そうかなあ……。でもちょっとかわいいよね」
「え……仁王くんが?」
「うん」
当事者の私としてはむしろ気持ち悪いくらいなんだけど、第三者から見ればそんなものなのかもしれない。
なにしろ仁王くんはルックスがずば抜けていい。
見られているのが自分でなければ、私もそう思っていたかも。
「仁王、おまえ露骨すぎねえ?」
仁王くんの後ろの席でガムを膨らませながらおもちゃのプラモデルを組み立てていた丸井くんが、また私にじーっと視線を送る仁王くんに声をかけるのが聞こえた。
さすが丸井くん、もっと言ってやって。
「でも、いっくら見ても俺に声かけてくれんし」
……!? 彼の丸井くんに対する返答は、衝撃的なものだった!
えー、どういうこと……? 私に声をかけろって意味で見てたの……?
「用事があるなら自分から声かけてくれればいいのに……」
このまま変に見られているのも嫌だから、さくっと済ませてこよう。
ちょっといってくる、とりっちゃんに声をかけるといってら〜、とゆるい声が返ってきた。
……いつの間にか携帯に夢中になっているみたいだった。
「仁王くん」
ずんずん、と勇ましい気持ちで歩きつつも、彼の前までくると(やはりかたくなに目を合わせようとしない)あくまで穏やかに、笑顔で声をかける。
「なにか用かな?」
すると仁王くんは、いきなり白い手を伸ばして私の手をぎゅっと握り、机の上の腕に顔をのせたまま上目遣いでこう言った。
「、好きじゃ。俺と付き合って」
もうやだ、このひと!
顔がぼんっと一気に赤くなるのを自覚しながら、私はすでに仁王くんの術中にはまっていたことにやっと気づくのだった。