「なあ、これなーんだ?」

ハルちゃんは小さな試験管に入った濃いピンク色の液体をちゃぷん、と振ってみせた。
見るからに怪しい色のそれに思わず顔をしかめる。

「また変なこと考えてるでしょ」

ひとつ年下の幼なじみはきれいな外見におかしな内面を持つ厄介者で、彼の突拍子もない思いつきの一番最初の犠牲者になるのは大抵私だった。

「考えとらんって。なあ、なんじゃと思う?」

ソファで買ってきたばかりのファッション雑誌を読んでいた私に、ハルちゃんが床にしゃがんだまま試験管を突きつける。
ふわっと飴のような甘い匂いが漂ってきた気がした。

「なんだろ。飲み物? あ、ストロベリーティーとか」
「大ヒント。薬」

私の答えはまったく合っていなかったらしい。
はずれ、とも言わずヒントを出してくる瞳があやしく細まる。
なんだか彼は、年を追う毎に色気が増している気がする。

「薬ねえ……あ、子供用の風邪薬とか? 飲みやすいように甘くできてるよね」
は相変わらず考え方が健全じゃの。これはもっとイヤラシイもんじゃ」

そう言いながらハルちゃんが目の前でピンク色の液体をまた揺らした。
なんだか見ているのが恥ずかしくなって目を逸らす。
イヤラシイもの、なんて、ハルちゃんが変なことを言うからだ。

「……わからないよ。知らない」
「降参か?」
「降参、降参」
「じゃ、罰としてにはこれを飲んでもらう」
「えっ?」

慌ててハルちゃんを見たときにはもうソファの背もたれに押し倒されていた。
ほとんど乗っかられているような体制で、身動きもできないまま唇に試験管の口を押しつけられた。
想像以上に甘い液体がどくどくと流れてきてのどを焼く。

「答えは媚薬。……淫薬、って言った方が正しいかのう」

び・や・く?
時々物語りの中に出てくる、飲めば相手を好きになってしまうというあれだろうか。
一気に口の中を犯す液体を飲み込むのに必死で、いんやく、という言葉の意味にまで頭が回らない。

「ようは飲むとえっちな気分になる薬じゃ。どうじゃ、。効いてきた?」
「けほっ、なに、言って……」

あまりに濃厚な甘さに噎せる。結局試験管の中に入っていた分すべて飲み干してしまった。
それよりハルちゃんは何を言っているのだろうか。
どんな、気分に、なるって?

「俺が効果を確かめちゃる」
「はるちゃん、」

ハルちゃんは私に乗っかるような姿勢のまま、キャミをたくしあげてきた。
衣服の中でも特に薄手のそれはあっという間に服の意味をなくし、下着と素肌が露わになる。
家の中ではいつもノーブラだったけれど、ハルちゃんが来るときはちゃんとブラをつけていた。
けれどそれだってもう、意味がなくなってしまう。

「や、あ……」

ハルちゃんの長い指が私の乳房を包み込んでいた。
下の方からゆっくりともみしだかれて、思わず声がもれてしまう。
まださっきの液体がのどに引っかかっているみたいに甘い声で、途端に恥ずかしくなる。
けれどハルちゃんにされていることがすでに恥ずかしいことのはずだ。
やっぱりあの薬は、本当にそういう気分になってしまう薬だったのだろうか。

、かわいい」
「ひあっ」

ハルちゃんが目を細めたと思ったら、きゅっと乳首を捻られて思わず目を閉じる。
なんだか頭がぼーっとしてきた。
身体は熱くて、変に高揚している。

「や、はるちゃん、わたしなんか、へん……」
「薬が効いてきたんじゃろ。俺がちゃんと治してやるから安心して」

身体の、特に下の部分が妙にうずいてくすぐったい感じがする。
ハルちゃんに触られながらたまらなく腰を捻ったら、ハルちゃんが私のホットパンツをおろしてショーツ上からつ、となぞった。

「ふ、あっ……!」
「気持ちいいか?」

私はもうたまらずに動きながらソファに身を横たえていて、その上から体重はかけないでハルちゃんが覆い被さっている。
片手は胸、片手はショーツ、そして唇は耳元に。
のどは熱いし、身体はハルちゃんに全部反応してしまう。
気持ちいい、確かにこれは気持ちいいのだろう。気が狂いそうなほどに。

「ちゃあんと最後までイかせちゃる」
「ハル、ちゃ……ん、あっ」

ショーツの中にハルちゃんの指がするりと進入してきた。
普段はしなやかにラケットを振るうハルちゃんの指はでも、いつだって恐ろしいくらいに細くてきれいだ。
その、ハルちゃんの指が、私の中に入ってくる。
気持ちいい気持ちいい、ハルちゃん、すき。
頭の中でさっきの薬が掻き回っているみたいに、もう私の思考はぐちゃぐちゃだった。

「すごい濡れとる。薬、ほんとに効いたみたいじゃの」
「しら、なっ……は、あっ……」

ハルちゃんがかき回すところから全身がどくどくと脈打っていた。
自分がどんな恥ずかしい格好をしているのかもわからなくなって、ただハルちゃんのされるがままに足を開いた。

「あっハルちゃん、もう、や、おかしくなっちゃう、んんッ……」
「ん、あんまりじらすのもかわいそうやの。んー、この辺?」
「あああ、ああーッ!」

ハルちゃんが私の中の、私でさえも知らないところを刺激した瞬間、感じたことのない快感が全身をはしった。
のど、というより身体の奥から出てきた嬌声は自分でも聞いたことのない高く甘いもので、でも私はピンクの薬とハルちゃんの手にもたらされた快感を受け止めるだけで精一杯だった。
だからハルちゃんが私の中から抜いた指をなめているのも、息がきれてぼーっとした視界の中で見ているだけだった。


私が正気を取り戻すのにそう時間はかからなかった。
ハルちゃんに近寄らないでと命令し、ソファの端と端で会話する。

「ハルちゃん、なんであんなことしたの!?」
「言わんとわからん?」
「あ、当たり前でしょ……! あんな、あんな……」

ハルちゃんにずっとイジられていた場所がまだなんだか湿っていて気持ち悪い。
すぐに洗ってしまいたかったが、「俺が洗っちゃる」とハルちゃんがついてこようとしたのでとりあえず問いつめるのを先決にした。

「あんな気持ちいいことしたのか、って?」
「……! そ、そうじゃないでしょ!」

気持ちよかったのは否定できないけど、今はそんなことを聞いているのではない!

「かわいかったのう、。やばいくらい」
「ハルちゃん!」
「あー、わかった、わかった。正直に言うナリ。俺、のことが好きなんじゃ」
「……私もハルちゃんのこと、好きだよ?」

幼なじみの私たちはそれこそ小さいときから言い合ってきた言葉だ。
でもハルちゃんは違う違う、と呆れたように首を振るう。

「だから、お前がそんなじゃから強硬手段に出たんじゃ。、俺のこと男として見とらんじゃろ」
「……恋愛対象として、ってこと?」

その言い回しで思い当たり、そして私は少し愕然とした。ハルちゃんの言うとおり、私は彼を恋愛対象として見たことなどなかった。
ハルちゃんはよくできました、ときれいに笑う。
普通の女の子ならきっときゅんとときめくのであろうその笑顔は、私にとっては当たり前のものだった。

にとって俺はいつまでたっても年下の幼なじみ。ハルちゃんのままじゃ。いい加減痺れを切らした、ってことぜよ」

だからっていきなりあんなことするなんて、やっぱりハルちゃんの思考はちょっとおかしいと思う。
まあ、乗せられてしまう私も私なんだけど。
……ん? ということは、もしかして?

「ハルちゃんて私のこと、」
「好きだ。キスして抱いて閉じこめてやりたいくらい」

息がつまった。
私はハルちゃんのいろんな表情をすぐそばで見てきたけれど、そんなに真剣で大人な顔は見たことがなかった。
それは紛れもない男性のもので、今まで私が気づかなかったハルちゃんだった。

「多少順序は狂ったがのう。どうじゃ、? 惚れ薬は効いたか?」

気づけばハルちゃんは一瞬で私との距離をつめていた。
さっき色んなところを触られたときもどきどきしていたけれど、あれとは全く違う緊張が襲う。
顔が熱くて、心臓がはねている。
ハルちゃんの前でこんな気持ちになったこと、今までなかったのに。

。好きじゃ。俺の恋人になって」

ハルちゃんに飲まされた媚薬はどうやら、絶大な効果を持っていたらしい。
有効期限もわからない。
私は為すすべもなく頷いていた。

「ほんと? 俺のこと、好きか?」
「……うん」
「ちゃんと、男として好き?」
「……うん、好き。私、ハルちゃんが好きだよ」

言葉にしてみるともっと実感する。ハルちゃんが好きだ。
ひとりの男の子として。
キスしてほしいし、ハルちゃんにならもっと触れてほしいと思う。

「……ああ、ありがとう。嬉しいのう。大事にするぜよ」

そう言ってハルちゃんは、私の頭を抱くように撫でた。
そしてそのまままったくハルちゃんらしい爆弾発言をする。

「ところであの薬、ほんとはただ水にシロップと食紅混ぜただけだったんじゃ」

え、えー!

「え……!? じゃ、じゃあその、媚薬っていうのは……」
「ウソ。だからほんとはがもとからエッチじゃっただけ」
「そ、そんなことない……!」
「恥ずかしがらんでええって。俺はその方が嬉しいし」
「……! し、知らない!」
「あー、悪かったって、怒らんで」

ぎゅっと抱きしめられても、この恥ずかしさは全然おさまりそうになかった。
……でも恥ずかしいだけで怒っているわけじゃないんだから、私も相当ハルちゃんに甘いんだろうなあ。

「なあ
「……」
「好いとうよ」

無視をしてたら熱っぽい声でそう言ってくるんだから、本当にずるい。
あんな変な薬なんて作らなくてもハルちゃんの存在自体がもう媚薬みたいなものだ、と溶けそうなほど濃厚なキスをされながら強く思った。

「じゃ、一緒に風呂に入るぜよ」
「や、やっぱりそうなるのね……」

飄々としてるくせに、ハルちゃんこそえっちじゃない、と思ったけれどなんだか後が怖いので口に出すのはやめておくことにした。


エロめな10のお題#1 5.薬  l i b e r a l i s m
09.9.1