最近仁王が意味もなく俺の席まで遊びに来るようになった。
ちょっと前まではふらっとどこかにいなくなるか寝ているかだったのに、ここのところ休み時間のたびに熱心にやってくる。
別に何をするわけでもない。俺の机の脇に立っているかしゃがみ込み、俺がものを食っていようがプラモを組み立てていようが本を読んでいようが、暇そうに話し掛けるか黙ってそこにいる。

いつから仁王がそんな風になったのか。この前席替えしてからだ。
そうとなれば理由はすぐにわかる。目当ては俺の隣の女子なんだろう。
仁王の純情な行動は意外だったが、もとからよくわからないやつだったから妙に納得もした。
モテるくせに彼女を作らなかったのは、一途だったからなのかもしれない。

断然面白くなってきたぜ! 弱みを握った気分だ。
そうとわかればちょっと隣にちょっかいを出してみようってもんだろぃ。
もちろん仁王が見ている前で、だ。
悪戯心に支配された俺はある日、仁王がまたやって来たのを見計らって、隣のに声をかけた。

「なあ、悪ぃんだけど次の時間、教科書見してくんねえ? ちょっと忘れちまってよ」
「うん、いいよ」
「サンキュ。今度なにか礼するから」
「あはは、そんなに気にしないでよ」

昨日ふと思いついた悪戯だったけど、教科書はわざわざ家に持って帰って置いてきたくらい準備は万全だ。
何しろ相手は仁王だから、机の中やロッカーに入れておいたらすぐに嘘だと見抜かれちまう。
仁王のやつ、少しは焦ってに話しかけるようになれば、逆にきっかけを作った俺に感謝して欲しいくらいだ。
余裕なのかなんなのか知らねえけど、一向に話そうとしないし。
だが肝心の仁王はというと、俺とのやり取りのあとすぐに姿を消していた。
ひょっとしてキレて逃げたのか?

「丸井」

しかし休み時間が終わる間近になって、またひょっこり姿を現した。

「これ、柳生から借りてきてやった」

走ってきたのだろう、少しだけ呼吸が乱れている仁王から次の授業で使う英語の教科書を差し出される。
……こいつまさか、俺とが仲良くするのが気に食わなくてわざわざ借りてきたのか?
どうやら仁王は想像以上に本気のようだった。

「な、なんだよ。わざわざ悪ぃな。サンキュ」

俺はそれだけ言って大人しく受け取ることにした。
に向き直り、

「えーと、そういうわけだから、もう大丈夫だ」
「うん。仁王くんて優しいんだね」

は笑いながら俺に頷いたあと、仁王に向かって微笑んだ。
うわ、こりゃ仁王、嬉しいだろーな。
そう思って突っ立っているやつを見上げると、真っ赤になった仁王がいた。
……俺はちょっと、目を疑った。
疑っている間にチャイムが鳴って、仁王はそそくさと自分の席に戻っていった。

仁王ってあんなやつだったっけ? 好きな女の前だとあんなになっちまうのか?
詐欺師が聞いて呆れるぜ! 俺は爆笑しそうになった。
頬杖をついて口元を隠し、身体が震えるのを懸命に抑える。
こりゃ、ジャッカルと赤也にも教えてやんねーと。柳なんて興味深いデータが採れそうだなとか喜ぶんじゃねーか。

なんてちょっとわくわくしながら考えてたら、知らず知らずの内に教科書に落書きしてた。
やべ、これ柳生のだった。



スペシャルマナー  09.2.12