「さんの消しゴム、おもろいな」
数日前から隣の席になった白石くんが、頬杖をつきながら私に微笑みかけてきた。
とくん、と胸が高鳴る。
この距離の近さだけでも緊張しっぱなしなのに、ちゃんとお話しなんてできるだろうか。
「これ、動物園みたいになるんよ」
すぐに目をそらしてしまった。
引き出しの中からいそいそと消しゴムについてきたボードを取り出す。
平面的な動物園が描かれたボードだ。
白石くんがおもろい、と言ってくれたキリンやゾウの消しゴムを適当に配置する。
「ほんまや。かわええな」
「かわええ」だなんて、そばで言われると、私に言ってくれたわけじゃないのに気恥ずかしくなってしまう。
「忍足くんが教えてくれたねん」
この前まで隣の席は忍足くんだった。
彼はおもしろい消しゴムをたくさん持っていて、いつの間にか私までハマってしまったのだ。
デパートの文房具屋にこの動物園消しゴムが売っているのを教えてくれたのも忍足くんだ。
「……知っとる」
白石くんの声、なんだか冷たい?
不安になって彼を見ると、にっこり微笑んでくれた。
うう、まぶしすぎる……。
「ようできとるな」
不意に白石くんの指先が伸びてきた。
長い指が計算されたかのようにきれいな角度でキリンの首をつまんだ。
そのとき、私の指に彼の指が少しだけ触れた。
一瞬の感触が甘いお薬みたいに全身を駆け巡る。
「さん、こういうの好きなん?」
「うん」
答える声が上擦りそうだった。
そして答えた瞬間、小学生みたいで恥ずかしいかな、と後悔する(忍足くんも恥ずかしい存在になっちゃうけど)。
けれど、白石くんの表情は優しかった。
「かわええな、自分」
顔が熱い。
白石くんではなく、白石くんが指先で撫でるキリンを一生懸命見つめる。
「い、いややわぁ、白石くん。うち、ツッコミ下手やねん。そんなボケんといて」
早口でそう捲し立てた。
動揺のあまり、無意識で私も消しゴムのゾウを撫でていた。
白石くんの視線がその仕草をとらえて、くすっと笑う。
もう、指の先まで熱を孕んでしまっている。
ゾウが溶けちゃうんじゃないだろうか……。
「ボケやない。本気や」
囁くような白石くんの声が私の脈をもっと速くする。
どうしよう。
なにがどうしようなのかもわからないけれど、どうしよう?
いま白石くんの目を見たら、どうにかなってしまいそうな気がする。
「お、、その消しゴム買ったんやな」
「お、忍足くん」
通りがかりの忍足くんに話しかけられた途端、夢から現実に戻ってきたような気分になった。
指の中のゾウはどうやら溶けずに済んだようだ。
「よーし、ケンヤ、今日は部活終わったら行列のできるお好み焼き屋でもいくで」
「白石、なんやねん? 急に。そないな待たなあかんとこ、勘弁や」
白石くんと忍足くんがわいわいと話しはじめ、私はぽーっとしながらその様子を見ていた。
心臓のどきどきがなかなか治まらない。
そのうちにチャイムが鳴って忍足くんが恐るべき速さで自分の席に戻っていった。
「さん」
白石くんが無駄のない動きで私の耳に口を寄せる。
「人間って、無意識に好きな相手と同じ仕草をしてしまうらしいで」
机上の動物園にキリンが戻ってきた。
白石くんがずっと撫でていたそのコに触れると、溶けそうなくらい熱をもっていた。
鏡の告白 15.3.7