すっかり陽の落ちた帰り道をとぼとぼと歩いた。
それはもう情けなくてみじめな気持ちだ。
バレンタインにそんな気持ちになるのはなにもチョコをもらえなかった男の子だけじゃない。
チョコを渡す勇気の出なかった女の子だってものすごく落ち込むのだ。
「……」
手に持った黄緑色の包みに白いため息を落とした。
何回も失敗してやっとなんとかまともにできたチョコレートは、めそめそしながら自分で食べることになるだろう。
さっきから街を流れる明るいバレンタインの歌が私をあざ笑うようだった。
「さん」
肩を落としてそんなことを考えていたら、後ろから掛けられた声に思い切りびっくりしてしまった。
だって、今の声は。
振り返れないでいると、彼は顔を覗き込んできた。
「やっぱり、さんや」
今日一日チョコを渡せなかった相手。白石くんが、にこりと微笑む。
それだけでマフラーを巻いた首が一気に熱くなる。
つい視線を逸らしてしまった、彼の手には紙袋が下げられていた。
口からは可愛らしい色の包みがいくつものぞいている。
今日の彼はいつ見ても女の子に囲まれていた。
優しい白石くんはひとりひとりに「おおきに」と笑顔を見せて受け取っていた。
「珍しいな、こんな時間に」
「う、うん。ちょっとね」
まさかテニス部が終わるのを待ってました、なんて言える訳がない。
……しかも結局、白石くんが出て来るのを待たずに帰ってしまった。
すっかり渡すのを諦めていたのに。
ラッピングを持った手に無意識にぎゅっと力が入った。
「キレイな色の包みやな。ひょっとしてチョコレートか?」
「違うの、これは……あっ!」
その動作が彼の目に入ってしまったらしい。
咄嗟に否定してしまいながら完全に動揺して、包みから手を離してしまった。
あぁ。きっと落っこちて粉々になってしまうだろう。
勇気を出せなかった報いなのかもしれない。
一瞬の間にそんなことを考えた。
「おっと、危ない」
けれど白石くんは、当たり前のように軽々とそれをキャッチした。
そしてラッピングを見て驚いた表情が、私に向けられたときにはとても優しい目になっている。
「さん、……これ、俺が受け取ってええんかな?」
「あ……あの、……」
ラッピングの箱には一枚のカードを添えていた。
そこにははっきり白石くんへ、と書かれている。
もう否定しようも、誤魔化しようもない。
私はやっぱり誤魔化しようもなく真っ赤になりながら、観念して頷いた。
「おおきに。めっちゃ嬉しいわ」
彼はふっと微笑むと、とびきり優しい声でそう言った。
今自分の手にチョコを持っていたら完全に溶けていただろう。
胸の奥がめちゃくちゃにとろけていく。
「白石、なんかもろてるー! ずるい、ワイもむぐぐっ」
「金ちゃん! 黙っとき! 邪魔しちゃアカン!」
えっ!?
後ろから聞こえてきた声に驚いて振り向くと、テニス部のひとたちが少し離れたところからこっちを見ていた。
ばたばたと暴れる遠山くんの身体を石田くんが、口を忍足くんが押さえている。
もしかして、ずっと見られていたのだろか……。
「気にせんで、どーぞ続けてください」
財前くんに促されてしまったが、続けろと言われても困ってしまう。
白石くんにチョコを受け取ってもらえたということだけでもいっぱいっぱいだった。
「まったく、アイツらは……。さん、逃げよか」
「えっ?」
どうしたらいいかわからないでいると、白石くんに手を掴まれた。
頭が真っ白なまま、走りだした彼に合わせてなんとか足を動かす。
「なんや、鬼ごっこか? 負けへんでー!」
「だから金ちゃん、邪魔したらアカンて!」
みんなの賑やかな声と足音を背中に聞きながら、白石くんしか目には入らない。
街を流れていた歌が、ハッピーバレンタイン、と祝福してくれた。
ハッピーバレンタイン! 12.2.13