はもうほとんどずっと俺の傍にしかいない。
教室でもの隣に席を替えてもらった。
俺は生徒からも教師からも三年間でそこそこ信頼を得ていたから、理由なんて適当にでっちあげればなんとでもなった。
俺以外の男とも女とも必要最低限の会話しか『できなくなった』、は精神的に病んでいることにしてしまったが。
「白石くん、さん。今日の放課後、クラスのみんなでカラオケに行こかって話が出てるんやけど、二人はどないする?」
の爪に塗っていた透明のマニキュアを一度置き、少し緊張気味に声を掛けてきたクラスメイトに向き直る。
が病気ということになってから、彼女たちは何かとを気遣ってくれる。
いらん気遣いやけど。
「悪いけど、俺らはパスや。誘ってくれてありがとうな」
申し訳なさそうな顔をすると、彼女はそっか、残念、と頷きながらちらりとの方を見る。
しかし何も声を掛けず、そっと席を離れた。
じっとつやつや輝く自分の爪の先を見ていたはその背中を少しだけ見上げる。
「行きたいんなら行ってもええで? 俺と一緒に何か歌うか?」
は「別にええ」と俯いて首を振った。
まだ友達たちに未練があるようで、時折反抗的な態度を見せる。
の指先を手に取って、残っていた小指の爪にマニキュアを丁寧に塗った。
仕上げにそっと息を吹きかけると、の身体がびくりと震える。
「……外、出よか」
そのまま手を引いて立ちあがらせた。
ゆっくりと歩きながら、きれいにしてやったの爪がぎり、と手のひらに食い込む。
可愛い抵抗や。こっちは指先を撫でてやりながら苦笑した。
「お疲れさん。当番代わるで」
保健室に入るなり、昼食と会議で留守中の保険医に代わって暇そうに漫画を読んでいた委員会の後輩に声を掛ける。
あ、え、と慌てて漫画を隠そうとしたそいつは「なんだ白石先輩か」と息をついた。
「いいんスか?」
「ああ。こいつが気分悪なってしもうてな。そのついでやから気にせんでええで」
手を繋いだままのを示しながら言うと、ははーんそういうことか、と後輩の顔に笑みが広がる。
「そういうことなら頼んます。ごゆっくり」
にやにやしながら後輩が出て行き、遠ざかるのを見届けてから扉に鍵を掛け、奥のベッドにを連れた。
「なあ、。もうええやろ? 俺だけいれば」
ベッドの上で正面に座らせ、両手を握り顔を覗き込みながらに問いかける。
は俯いて俺を見ようとしないので、両頬を挟んでこっちを向かせた。
少し潤んだ瞳で唇をきゅっと引き結んでいる。
頑なに答えようとしないのでキスして舌で唇をこじ開けた。
息と一緒に苦しそうな声が漏れる。
「こないだ犯したこと、まだ怒っとるんか?」
舌を抜き、小さいキスを何度か繰り返してから尋ねると、は真っ赤になった舌を見せて声にならない声を上げた。
可愛いなあ。思わずくっくと笑ってしまう。
「怒っとらんよなあ。あんなに悦んでたもんなあ」
「そんなことない!」
はぶんぶんと勢い良く首を振って否定するが、その反応がすでに認めているようなものだ。
腰に手を回して抱き寄せながら、真っ赤な耳元に唇を近づける。
「本当はもうわかっとるんやろ。お前の身体にも心にも、俺の毒は充満しとる。一生抜けきれんほどにな」
「……っ! そんなこと、ない。クーちゃん、私、私は……もう、こんなこと……」
否定しながら俺の胸に縋りついてくるの髪をそっと撫でた。
本当におかしくなってしまえばいい。
俺に狂って、壊れてしまえばいい。
いや、俺がそうしてやる。
「、大好きやで。俺、お前のこと死んでもいいくらい愛しとんのや」
「……!」
お前がいないと生きていけないしお前さえいれば生きていける生まれてきたときからずっとずっとお前のことが大好きや離したくないし離れたくない愛しとる愛しとる愛しとる俺だけを見て俺だけを感じて俺だけに触れて俺だけの傍にいてずっとずっと一緒にキスしてエッチして手繋いでデートして死ぬまでお互いだけを見て生きていこういいや死んだ後だってずっと一緒や天国でも地獄でも来世でも世界が滅んだっていつまでも永遠に俺はお前のことだけを愛し続けるからな、毒を孕んだ愛の言葉を途切れることなく囁き続ける。
底の方からどんどん溢れてくるへの感情は留まることもなく膨張し続けた。
を包み込んで取り込んでしまうぐらいに。
「あ、ああ……クーちゃん、私……」
制服の中に手を滑りこませて素肌を撫でると、が声をこぼしながら律動した。
その目が言っている。その身体が言っている。
俺以外の全てのものなんて、もうどうでもいいと。
の身体を優しく押し倒して、微笑みかける。
「。ずーっと一緒にいような」
そこは深い深い闇の中だけれど、何も心配することはない。
の右手に毒手を重ねてぎゅっと握りしめる。
毒の華の咲き乱れるそこは、俺たちの完璧な世界だ。
ほら、もっともっと壊れて俺と一緒に行こう、。
クーちゃん、大好き。
セックスしながらがこぼしたその一言で、俺は最高のエクスタシーを手に入れた。
毒の華 clash
11.3.4
♪毒の華 / 白石蔵ノ介