校外マラソンを一番に走り終えた七松くんはそのまま私のそばまで寄ってきて、真面目な顔で質問した。
「先生、永遠とは何ですか」
それは答えるのが非常に難しい問いで、おそらく正解はないという類のものだ。
いつも通り元気に走っている間、彼はなにか哲学的なことを考えていたらしい。
有り余るくらい体力のある七松くん、でも彼はただそれだけではない。
「私たちはいずれこの学園を卒業するでしょう。そして先生はきっとここで先生を続けていく」
彼の話す未来は一番可能性の高いものだった。私は黙って頷く。
マラソンを終えたろ組のコたちが少しずつ戻ってきて、私たちの方をちら、と見ると各々整理体操を始めていた。
低学年なら遊んだりへたりこんでしまうところだろうが、六年生ともなるとさすがに違う。
彼らにはこの学園で六年間耐え抜き、成長していく力があった。
あともう一年も経たないうちに自分の力だけで生きていく実力を備えるほどに。
「私は寂しく思います。時が流れてゆくことを」
七松くんは真剣な表情で、芯の通った声で続けた。
忍術学園のくの一教室出身だった私は、教師としてこの学園に足を踏み入れたとき懐かしさに泣きそうになった。
卒業するときの寂しさ、せつなさは苦しいほど大きなものだった。
仲間たちはそれぞれの仕事を見つけ、各地に散った。
時々偶然会うこともあったが、それはときに合戦場の敵同士であったりした。
「七松くん。私の答えでも良いのかな」
「はい。私が聞きたいのは先生の答えです」
七松くんはいつも元気で、先生! と私を慕ってくれて、そしてまっすぐだった。
「私は永遠ていうのは、過去のことだと思う。時が流れて、きみが卒業して、私がおばあちゃんになっても、私がきみの先生だった、っていう事実は変わらないよね」
小平太くんは私の目を見てしっかり頷いた。
彼は私よりも背が高いけれど、私の方が多く生きている。授業の他にも伝えられることはあるはずだ。
「はこの先もずっと、きみの先生だよ。きみがどんなに遠くへ行ったって、いつだってこの学園できみの無事を祈ってる。寂しくなったら会いに来ればいい。きっと私も寂しく思っているから」
私が教師になったのは情けない話、逃げでもあった。
かつて一緒に過ごした仲間たちと殺し合うことは狂いそうになるほどの苦痛だった。
教師になれば少なくとも、その可能性は普通に忍をしているより格段に減る。
そんな私が偉そうに言えることなど本当はないのかもしれない。
だから強がりはしない。寂しいときはその寂しさを和らげに来ればいい。
もしも七松くんがかつての仲間と戦ったとして、彼が私のもとを訪れたとき、少しでも慰めることができたらいい、そう思う。
「ありがとう、先生」
七松くんの不安を取り除いてあげられたのかはわからない。
けれど彼は大きな笑みで感謝の言葉を述べてくれた。
うん、私も目一杯笑って頷き返す。
「さて、それじゃ卒業しても無事でいられるよう、もっと体力をつけよっか。校外マラソン、もう三周! 体育委員長七松小平太くん、先導よろしくね」
「はいッ!! オラオラ立てみんな、いけいけどんどーん!!」
大きな声でみんなをはやし立てながら、七松くんはあっという間に走っていった。
体操していたり休んでいたみんなも、えーっ、とかおーっ、とか言いながら七松くんの後を追う。
私はなんだか、無性に泣きそうな気持になりながらみんなの背中を見送った。
どうかみんなの未来が、希望と幸福に満ちあふれた輝かしいものでありますように。
仲間で殺し合うことのないような世界がいつか来るようにと、祈らずにはいられなかった。
永遠とは何ですか。
七松くんの真剣で純粋な問いが頭の中で繰り返される。
私は彼にとっての永遠であることができるだろうか。
わからないけれど、十五歳の彼はきっと、私とこの学園の記憶の中で永遠に輝き続けるだろう。