「俺、さんに告白しまスわ」
「ほー、そうか……ってえぇ!?」
家に遊びに来ていた財前は、ケータイを弄りながら「トイレ行ってきまスわ」くらいの調子で言った。
「別にそんな驚くことでもあらへんやろ、謙也さん」
「いや、驚くやろ! お前、のこと好きやったんか!?」
財前が俺ん家に遊びに来るようになって、たまに遊びに来ていた幼馴染のと出会ってもう結構経っただろうか。
学校も同じで家も近所のとは財前と一緒のときも良く会うことがあったが、財前がのことを好きだとはまったく気づかんかった。
……こいつ、の前でもポーカーフェイスのままやし。
「初めて会うたときから好きでしたよ」
「なんや、一目惚れっちゅーことか?」
「まぁ、そういうことになりまスわ」
って一目惚れされるようなタイプか?
まぁ俺が見慣れすぎてただけで、財前にとってはなんや新鮮だったのかもしれん。
「それで、謙也さんに協力してもらいたいんスけど」
「お、おお。俺がか?」
幼馴染と後輩の仲を取り持つって、なんや微妙な気ぃするな……。
白石の方がこういう役回りは上手そうやけど、かなでと幼馴染なのは俺やしな。
「……嫌なんスか? ひょっとして謙也さんもさんのこと」
「狙ってへんわ、睨むな!」
財前の鷹みたいな目で睨まれると正直ほんま怖いわ。
もしほんまにのこと好きやったとしても、財前相手やとかなり苦労しそうやな……。
俺、に恋愛感情持ってなくて心底よかったわ。
「ま、そーっスよね。謙也さんの態度見てる限り」
「なら睨むなや……。で、俺は何をすればいいんや? 今からここに呼び出すか?」
「謙也さんの家で告白してもしゃーないスわ。明日、学校でしますんで」
「……あぁ、そうかいな」
それにしても、両想いになる協力をしてくれ、ではなくいきなり告白の協力をしてくれ、っていうのがいかにも財前らしい。
財前には振られる気はまったくなさそうやけど、は財前のことどう思ってんのやろ。
そういやから財前の話ってほとんど聞いたことない気がするなぁ。
「告白の前に俺をどう思ってるか聞いたり、余計なことはせんといてくださいよ」
「お前はエスパーか」
「謙也さんがわかりやすすぎでスわ。ええですか、俺の言うことだけやっとってください」
「へいへい、わかりましたよーっと……」
こんなことになるとは、と思いながら財前の告白作戦に耳を傾ける。
どうやら真面目に告白するつもりらしい。
面倒臭がりな財前にここまでさせるなんてもなかなかやるやないか。
その夜、とメールをする度に財前のことを言ってしまいたくてしょうがなかった。
ボロが出ないように早々に寝ることにする。
なんや今日は驚かされたが、布団に入ったらいつものように一瞬で眠りに落ちた。
次の日。
音楽室に繋がる唯一の階段の一番上に俺は腰掛けていた。
その音楽室からはピアノの音が聞こえてくる。
今それをがうっとりと聴いているところなんだろうか。
それにしても財前のやつ、ピアノなんて弾けたんか?
「あれ、誰かと思ったら謙也か。こんなところで何しとるん?」
「白石か。音楽室に用かいな?」
「次の授業で打楽器を使うたコントの練習やるゆうてな、先生に取ってこい頼まれたんや」
「そうか……、せやけどあの部屋、しらばく行かへん方がええで」
財前が俺に協力を頼んだことは二つ。
一つはを音楽室へ呼び出すこと、そして二つ目が告白が終わるまで誰もこの先に通さないことだ。
要は門番やな。そういえば何ていうたっけ、白石を苦戦させた青学の不二の技は。
あれも確か何とかの門番やったな。白石はつくづく門番に縁があるみたいや。
「なんや、何かやっとるんか?」
「ああ……いや、それがな、財前とが漫才の練習しとるんや」
……我ながら下手な言い訳や。
中途半端に嘘もつけんで二人の名前出してもうた。
白石は目ェ丸くしてツッコミすら忘れとる。
けれど次の瞬間、あぁ、と握った左手で右手のてのひらをぽん、と打った。
「財前のやつ、とうとう告白しとるんやな」
「えっ!? なんで知っとるん!?」
しまった、認めてもうた。
だが白石も誘導尋問ではなく確信で口にしたらしい、感慨深げにうんうんと頷いている。
「頑張っとったもんな、あいつ。うまくいくとええなぁ」
「……白石は財前が好きやって気づいとったんか?」
「当たり前やろ。ガンガン攻めとったやないか。ま、あのコもちょっとぽやっとしたコやからな、財前の気持ちには気づいてへんかったみたいやけど」
「嘘やろ……俺、全然気づかんかったで」
ガンガン攻めるどころか、三人で一緒にいるときにあの二人はほとんど話すらしていなかった。
は人見知りが激しいところがあるし、正直財前は振られるんやないかとすら思っとった。
まぁ、あの財前がなんの勝算もなしに勝負に出るはずがないか。
脳ある鷹は爪を隠す、っちゅー訳やな。
「謙也からすれば複雑なんちゃう? さんとられて寂しいやろ」
「別に寂しかないわ。複雑は複雑やけどな」
「ははっ。でもそういうことならしゃーない、俺もここで待たせてもらうわ」
そう言って白石も階段に腰掛けた。
いつの間にかピアノの音はやんでいて、人の気配も感じないほどにしんとしている。
もともと待つのは苦手だが、今日は特に落ち着かない。
幼馴染と後輩のラブシーンなんか想像すると、どうにも身内のそれを想像したようななんともいえない気持ちになってくる。
しかしそんな俺の思いをよそに、音楽室の扉はとうとう開かれた。
「お。うまくいったみたいやな」
出てきた二人の様子を一目見て、白石にはそれがわかったらしい。
まぁ、普通振られたらどっちかが先に出て来るやろうしな。
財前はいつものポーカーフェイスだが、は少し俯かせた顔を赤くしていた。
うわ、なんやあれ、俺の前とじゃ全然表情違うやないか!
「あれ。白石部長もおったんですか」
「ちょうど音楽室に用があってな。それよりおめでとさん、二人とも」
「……謙也さん」
「俺は喋っとらんって!」
「わかってまスわ。白石部長にはお見通しやったんでしょ」
ま、そういうことやな、と言いながら白石が軽く拍手をする。
はますます恥ずかしそうに縮こまっていた。
「そーゆーことで、俺ら付き合うことになったんで」
「へいへい、おめでとさん」
「ケンちゃん……おおきに」
仕方なく白石に合わせてパンパンと拍手をすると、にまともに礼を言われて適当な態度が悪い気がしてくる。
「どうや謙也、娘を嫁がせる父親の気分は」
「なんでやねん」
白石に力なくツッコみつつ、案外それに近いのかもしれない、と自分でも思ってしまった。
「狙ってねーよ、睨むな!」
「あの部屋、しばらく行かない方がいいぜ」
by TOY 様
スピードスター・オペレッタ 15.2.4