「……お前ら、何しとんの?」
俺の目にはさんが財前の耳を舐めているようにしか見えなかった。
その財前は平然と音楽雑誌を読んでいる。
二人きりの教室で、一体こいつらは何しとんねん!
「なんや、白石部長か。見てわかるやろ。罰ゲームっスわ」
「いや、わからへんて」
財前は雑誌から顔も上げずに言うが、さんは慌てた様子で財前の耳から舌を離した。
……いやいや、やっぱおかしいやろ。
「、何やめとんのや。俺がいいって言うまで続けなあかんやろ」
「で、でも……」
さんはちら、と真っ赤な顔で俺の方を見た。
どうしても赤く濡れた唇に目がいってしまい、バツの悪さを感じながら無理やり視線を逸らす。
財前が軽くさんの髪を引っ張ると、さんはためらいがちに財前の耳にまた唇を寄せる。
ほんまどうなっとんねん。これまたえらい毒やわ。
「なんや、罰ゲームて。なんか勝負でもしたんかいな」
「音ゲーっす。まあ勝負にならへんかったけど」
「そらそうやろ」
さんはきっと、勝てる見込みもない勝負をやらされてこてんぱんに負けてしまったのだろう。
そしてなぜか耳を舐めさせられているという訳だ。
キスするように唇をつけては離し、遠慮がちに震える舌の先が財前の耳にそっと触れる。
「……お前の性癖に文句言うつもりはないけどな、ピアスでさんの舌でも切れたらどないするんや」
「そんときは俺がの舌舐めて治しまスわ」
無意識なのか、財前は獲物を前にしたときのように舌舐めずりをする。
それを見たさんが財前のピアスを舌でなぞりながらたまらなそうに「はぁっ」と熱い息を吐いた。
あかん、完全に目がとろけとる。正直かなりエロいわ。
にしてもこの二人、なんやえらい相性良さそうやな……。
「そんで、何か用やったんスか? 部長」
「ああ、今日はオサムちゃんのお笑い講座の出席率がえらい悪うてな。誰か学校に残っとらんか探しにきたんや。でもお邪魔やったみたいやな」
「わかっとるやないスか。すんませんけど今日は欠席で頼んます」
「しゃあないわ」
俺らのやり取りの間にも、さんは丹念に財前の耳を舐めていた。
時折ちゅっちゅぴちゃくちゅと水音やらなにやらがするのがなんとも生々しい。
この状況、ツッコミどころが多すぎて俺にはお手上げや。
それこそオサムちゃんくらいやないとどうにもできへんのやないか。
なんちゅーか、経験的に。
「白石先輩、ごめんなさい」
「ええからお前は黙って俺の耳舐めとけや」
財前は言いながら、顔を上げて謝ってきたさんの首を後ろから掴んで引き寄せる。
「ああ、次逆な」と財前が言うと、さんは髪を耳にかけながら姿勢を変えて反対側を舐めはじめた。
疲れているのか感じているのか、さんの息遣いがやけに耳に届いてくる。
それにしても財前のやつ、よう平然としてられるわ。不感症なんとちゃう?
まあ、俺がおるから隠しとるだけやろうな。今度むっつりやってからかってやろう。
「……ほなな」
「お疲れッス」
なんや気になるけど黙って見とる訳にもいかんし、これ以上ここにいても仕方あらへんわ。
財前のおざなりなあいさつと同時に2年7組の教室から離れる。
「痛っ」
少し歩いたとき、さんの小さな悲鳴が聞こえてきた気がした。
ほんまにピアスで舌でも切ったんやろか。
今頃財前がさんの口と血を舐めているのかもしれない。
あかんあかん。
淫らな想像を振り払うように首を振るう。
次は千歳でも探しに行くか。いや、あいつのことやからもう学校におらへんやろな。
小春とユウジはどっかで漫才の練習でもしとるんやろか。
半ば無理やり考えながらも無意識に指で自分の耳をなぞっていて、ピンク色の舌を思い出した瞬間ゾクリと身体が震えた。
舌とピアス 11.3.9