「あ」
「わっ」
登校中にばったり会った向日くんと私は、思わずその場で立ち止まってしまった。
お互いそれぞれの首もとに目が止まっている。
……タータンチェックのマフラー、お揃いだ。
赤と黄色という明るい色合いまで全く一緒。
「……向日くん、それレディースだよね?」
「な、なんだよ。たかがマフラーだろ」
昨日の休みに親と出かけて買ってもらったばかりのマフラーは、前から憧れていたブランドのものだった。
鏡の前でいろんな付け方を試してみて、今日も朝からおろしたてのマフラーのおかげですごく気分が良かった。
私は向日くんの姿を明るい頭の先から眺め、ため息をつきたくなった。
「ていうか、私より似合ってるし……」
すごく気に入ってたのに、男の子の方が似合うなんてずるい。
でも向日くんならしょうがないのかもしれない。
男の子にしては小柄で、テニス部のくせにとても色白の向日くんにはこういう柄と色がよく似合う。
「はあっ? んなことねえって。お前の方が似合ってるよ!」
「……ウソ。向日くんの方が似合ってる。向日くんの方が絶対可愛い」
十人に聞いたら十人がそう答えるだろう。間違いない。なんなら今から道行く人に聞いてみてもいいくらいだ。
「いーや、の方が絶対かわいい!!」
「向日くんの方が可愛い!」
「だよ!」
「向日くんだってば!」
「おいお前ら、なに朝からいちゃついとんのや」
い、いちゃ……? 聞き捨てならない言葉に振り向いてみるとそこには呆れた顔で白い息を吐く忍足くんの姿があった。
手触りの良さそうな紺色のマフラーを上品に巻いていて、彼の大人っぽい雰囲気によく合っていた。
でもやっぱり、向日くんとタータンチェックの方がハマっていると思う。
「ゆ、侑士! 変なこと言ってんじゃねえよ!」
「そうだよ! 私たちは言い争ってたんだよ! ねえ、向日くんの方がこのマフラー似合ってるでしょ?」
向日くんの隣に並んで見比べてもらう。
忍足くんはなんだか余裕で苦笑しながらすぐに答えた。
「そら、さんの方が似合うとるで。こういうんは可愛い女の子が身につけるんが一番や」
「!!」
あ、暑い! なんだか今すぐにマフラーを放り投げてしまいたいほど暑くなった。
やだやだ、忍足くんってなんで朝からそんなこと言えるんだろう。
「おい、なに赤くなってんだよ! 俺だってさっきお前に可愛い、って言っただろ!」
「えー……? 自分より可愛い男の子にそう言われてもなあ……」
「はあ!? くそくそ、なんだよ! 意味わかんねえし!」
向日くんはなんだかキレてしまって、自分のマフラーを毟るように取ってしまった。
「なんで外しちゃうの!? せっかく似合ってるのに!」
「うっせえな、だからだよ!」
似合うから外してしまう、ということだろうか。
意味がわからないのはこっちだ!
「それとももしかして、私とお揃いは嫌だった?」
そうなのかもしれない。言葉にするとますますそんな気がしてきた。
悲しくなって俯いてしまったから向日くんの表情はわからなかったけれど、「はあっ!?」という声はなんとなく慌てているような気がした。
「なんでそうなるんだよ、んなことねーって!」
「でも……」
「でも、じゃねえっつの! あーもーわかったよ、つけりゃいいんだろ、つけりゃ!」
向日くんは忍足くんに押しつけていた(忍足くんには見事に似合わなかった)タータンチェックのマフラーを、また自分の首にぐるっと巻く。
明るい太陽と向日葵の色は、やっぱり彼によく似合った。
「これでいいんだろ!」
「うん! 向日くんとお揃い、私は嬉しいよ」
「!!」
そんな向日くんを見ていると心も明るくなってきて、素直な気持ちを口にする。
でも向日くんが途端にかあっと赤くなったので、私も自分で言っておきながら恥ずかしくなってきてしまった。
「お似合いやで、お二人さん」
「ゆ、侑士!」
「忍足くん……!」
「なんや、俺は二人ともそのマフラーがよう似合っとるなあ、ってゆうたつもりやったんやけど」
「!!」
私と向日くんではとても忍足くんには太刀打ちできない。
私たちはお互いマフラーが必要ないほど身体を熱くしているのに、赤くなった頬を隠すためにもっと強い色のタータンチェックに顔を埋めるのだった。