「ブン太ー! お風呂入んなさい!」
「もう入った!」
「あら、そう。今日は早いわね」

肩にかけたタオルで髪を拭きながら自分の部屋に急いだ。
弟たちに捕まんねえうちにひきこもんねえと。
悪いけど今日は遊んでやる余裕がない。

「さて、と……」

パタン、と逸る気持ちでドアを閉め、ベッドにダイブする。
枕元にきちんと置いていた携帯をどきどきしながら手に取った。
……って、光ってるし!
開く間もなくメールがきていることを知って、大慌てでフリップを開いた。慌てすぎて何度か指を挟みそうになる。

「って……赤也かよ!」

うつ伏せながら自然に上がっていた両足と顔が同時に落ちた。
あーっもう、まじ勘弁しろよ! 期待させやがって!

「うおっ!」

枕に顔を押しつけて赤也に心から文句を言っていたら、最近気に入ったアーティストのラブソングが流れ出した。
それはまさしく、俺が待ち望んでいたメールに違いなかった。
なにしろ今日、あいつ専用に着うたを設定したばっかりだ。

「きた! からだ!」

赤也のメールを読むのは後回しにして、少しの操作ももどかしく感じながら新しく届いたメールを開く。
タイトルは『Re:』。まあそうだろう、元々俺が無題で送ったんだし。
なんか気の利いたタイトルでもつけられれば良かったんだけど、それだけで一時間半悩んだから結局止めた。

『メールありがとう。じゃあブン太くん、って呼ばせてもらうね。なんか恥ずかしいなあ、メールなら平気だけど学校では呼べないかも(笑)そしたら私のこともでいいからね』
、か……やっべえ、まじで照れる! ていうか可愛いな、ほんと」

他の女友達から比べたらシンプルすぎるメールだったけれど、時々控えめに絵文字も使ってあったりして、これもしハートとか使われたらまじたまんねえかも、ととりあえずそこまで妄想した。

全国大会が終わり、一息ついた俺は恋に走った。
ぶっちゃけ俺ってモテるし今まで何人も彼女はいたけど、ほとんど女友達に告られて「まいっか」、って感じでオッケーしたから正直どいつとも恋人としては長続きしなかった。
俺が彼女よりテニスや食い物を優先させるのがどうも気に食わないらしい。
こっちからしてみればそっちにそこまで魅力がない、って話しになるんだけど、まあさすがにそこまでは口にしない。
「不満なら別れるか?」って聞いたら「わかった、もういい!」って言われてそれでおしまいだ。ひどいときはビンタもされるけど、ま、真田の鉄拳制裁に比べたら可愛いもんだろぃ。

ところがそんな俺にも、実は前から気になっている女子がいた。
しかも同じクラスに。
そいつからは家庭科の調理実習で同じ班になったときにちょっと余分に料理を分けてもらったくらいで、話したことすらほとんどなかった。
けどどうにも気がつくと目で追っていたり、誰かと話していると気になったり、春からそんなことを続けているうちにもう夏も終わっちまった。
たぶん、姿とか雰囲気とか、好みのど真ん中だったんだろう。

俺がケータイのアドレスを聞くのにあんなに緊張したのはが初めてだったし、この先もそんな相手にはもう出会わない気がする。
俺って結構プレッシャー感じちまう方だけど、にアドレスを聞くときはテニスの試合の比じゃなかった。
事前にガムを五個くらい噛んでやっと少し落ち着いたところで勝負に出た。
まあ告白したって訳じゃないし、当然普通に教えてもらえた。
それが今日の昼。

赤外線でゲットしたの着信音にダウンロードしたばっかのラブソングなんかを設定して、メアドゲットした直後から散々なんて送ろうか考えて、えいやっとメールを送ったのが風呂に入る前。
そんで出て戻ってみたら赤也からメールが届いてて……って、あ、そういやあいつのメール忘れてたな。まあいいや、今はに返信するのが先だ。
そんでさっきからまた文面に悩みに悩んで、今までのことを反芻してたって訳だ。

「どうすっかなー」

ベッドをごろごろ転がりながらも携帯だけは手にしたまま離せない。
さっきから何度もからのメールを読み返しているけれど、何度見てもにやにやしちまう。
あんまり返信が早いのも微妙かな、と思ったけど、悩んでいる間にもう結構時間が経ってて、今度は逆に焦り始めた。
でもは即レスってタイプじゃなさそうだしな。
やっぱここはじっくり考えた方がいいよな。

一回肩の力を抜いて、見つめっぱなしだった携帯の画面から目を離す。
寝転がりながら窓の外を仰ぎ見ると秋の高い夜空にぽっかり月が浮かんでいた。
メールに集中しすぎて全然気づかなかったけど、虫の声もいい感じに聞こえてくる。

……じゃなかった、もこの音、聞いてんのかな」

メールの最後にちょこっとそんな内容を入れてみようか。
秋の夜はまだまだ長い。
実はずっと前から始まっていて、でもやっと動き始めたこの恋も、まだまだこれからだ。
不安や緊張や期待で鼓動は高鳴り続ける。
のことを考えながら、きっと一晩中ケータイを握りしめたまま、今夜は眠れそうにもなかった。


恋い慕い 秋の夜長も眠れぬままに  h a z y 様  09.11.8
企画『SUMMER AGAIN』様に参加させて頂きました。ありがとうございました!