「……ねえブン太」
「んぐ、んぐ? ……、なんだ? 」
ブン太は私があげたばかりのケーキをごっくんと飲み込んで、口のまわりをぺろっと舐めてから答えた。
ブン太は甘いものを食べて機嫌がいいからか、私の機嫌の悪さには気づいていない。
「いつも私がブン太にあげてばかりじゃない? たまには私にもなにかくれないの?」
「なんだよ、なにか欲しいもんでもあんのか?」
「そういう訳じゃないけど。気持ちの問題だよ。献身的な彼女にたまにはお返ししてあげてもいいんじゃないの、って話」
別にブン太にお菓子を作ってあげるのが不満なわけじゃない。
私も楽しんで作っているし、ブン太が喜んでくれるのはなにより嬉しい。
だからブン太の笑顔がなによりの報酬、とも言えるんだけど、たまには違うかたちでも気持ちを示して欲しいと思うのは罪ではないだろう。
「お前が満足するなら俺はなんでもやるけど。いいぜ、なにが欲しいのか言ってみろぃ」
「え、ええ? そういう風に聞かれるとそれはそれで困るっていうか……」
ブン太がこういうところ男前だ、っていうのはわかっていたけれど、いざ面と向かって聞かれるとなにをねだろうか迷ってしまう。
……ペアリングはもうあるし、さしあたって観たい映画も、行きたい場所もない。
「なんだよ、悩んでんのか? 別にものじゃなくてもいいぜ。キスでもハグでも」
「それはいつもしてるじゃない……、あ! じゃああれ、お姫様抱っこがいい!」
それは乙女の憧れだ。
私も一生のうちに一回くらいはお姫様抱っこされてみたい。
ブン太は部活で鍛えてるから私の重みくらい耐えられる……はず、だし。
「それはいいけど、不合格だな」
「えー!? なによ、不合格って!」
「知ってんだろぃ? 俺、甘いもんが大好物なんだよ。だからもっと甘く可愛くおねだりしてみろよ」
「あ、甘くって……」
やだ、ブン太が変なこと言うから顔が熱くなてきちゃった。
うう、おねだりする私の方が優位に立っているはずなのに、なんでこんなにブン太のペースなんだろう……。
「えっと、じゃあ……お願い、ブン太。お姫様抱っこして?」
上目遣い、これでできてるのかな……。
あと袖をちょっと引っ張ってみたりして。
なんというか、少女漫画の知識を総動員だ。
これ、しぬほど恥ずかしいけど……。
「……いいじゃん、すげえ可愛い、お前。でももう一声だな。抱いて、って言ってみ」
「ち、ちょっと! それ意味違くない!?」
「違くねえよ。お姫様みたいに抱いて欲しいんだろぃ? 違う、ってじゃあ、他にどんな意味があるんだよ?」
「……! も、もういい! もうおねだりなんてしない!」
ブン太は意地悪くにやにやしていて、私の恥ずかしさももう限界だった。
「、待てって! 悪い、からかいすぎたよ。なあ、ちゃんとお姫様抱っこしてやるから」
去ろうとした腕を引っ張られて、その勢いで私はブン太の方を向く。
彼の頬を両手で包み込む、さっきまでクリームを食べていたブン太の唇はまだつやつやしている。
きょとんとしている彼を見つめながら、
「……抱いて、ブン太」
「……!」
ブン太は一気に赤くなった。両頬を挟んでいる手にしっかりとその熱を感じる。
形勢逆転! いつもどきどきさせられているのはこっちばかりなんだから、たまにはお返しだ。
「、お前……」
「わっ」
ブン太に名前を呼ばれた、と思ったらあっというまに抱き上げられていた。
あわてて彼の首に腕を回してから気づく、念願のお姫様抱っこだ!
「わあ、すごい……! ありがとう、ブン太! ……ブン太?」
じ、っと私を見下ろすブン太の目が、……なんていうかぎらぎらしていて、ぞくっとする。
私ひょっとして、変なスイッチ押しちゃった……?
「ブ、ブン太……? あの、ちょっと、どこまで行くの?」
「黙ってろぃ。その口塞ぐぜ?」
「……」
誰もいない家のリビングから、ブン太は階段をあがって私の部屋に移動する。
硬直してる私はそこでやっと降ろされた。
ベッドの上に。
「あの、ブン太……?」
「なんだよ? 抱いて、って言ったのはお前だろぃ」
「え、ちょっと、だってそれはブン太が……!」
「そうだな。言えっていったのは俺だな。わりぃ、想像以上にがかわいいから我慢できなくなった」
「……!」
私の上に覆いかぶさったブン太はにっこり笑った。
これはもう逃げられない、と私は瞬時に思う。
「だから今度は俺からおねだり。……、抱かせろ」
それはおねだりじゃなくてもう命令だ。
でも言い返す前に唇が塞がれた。
ああ、もう、結局ブン太にはかなわない。
「、すげえ好き」
「……私も大好き、ブン太」
でも私はそんなブン太が好きなのだ。
だから精一杯彼を愛して、愛されよう。
わがままな私たちはお互いにもっと、もっと、と触れ合った。