「丸井先輩、俺見ちゃいましたよ!」
やっと部活の時間が来た!
昨日から丸井先輩に言いたくてウズウズしていたことをやっと言える。
部室に入ってきたばっかりの先輩に近寄ると「はあ?」とけげんな顔をされる。
まだ本当にわかってないのか、心当たりがあるのに隠しているのか。
へっへっへ、見られたと知ったら驚くだろーな。ニヤニヤが止まらない。
「昨日、ファミレスで彼女とパフェ半分コしてたっしょ!」
昨日はせっかく部活も休みだし、一日ゲームをしていようと思ったら親に無理やり連れ出されたのだ。
わざわざ食べに行くのがめんどくさくってずっと不機嫌にしていたが、入ったファミレスで見慣れた赤い髪を見て一気に吹き飛んだ。
何しろ彼女連れ。しかもパフェを分け合ってる! あのこと食べ物に関して俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの、な丸井先輩が!
急に張り切りだした俺に不思議そうな顔をする両親は気にせず先輩の席が見やすい場所を陣取り、バレないようになるべく喋らないようにしながら観察していた。
……あまりにラブラブな感じがしたから、途中でまたちょっとムッとしてきたけど。
「ほう、丸井に彼女がいたとは初耳じゃな」
まだ訝しげな顔をする丸井先輩のかわりに反応したのは一緒に部室に入ってきた仁王先輩だった。
丸井先輩と同じクラスの仁王先輩が知らないということは、彼女はクラスメイトじゃねえのかな。
ちなみに俺にも見覚えのない人だったから、たぶんうちの二年じゃない。
それにしても結構するどい仁王先輩に気付かれなかったとなると、丸井先輩はずっと隠してきたんだろうか。
「水臭いじゃないスか。あんなにラブラブな彼女がいたのに隠してるなんて」
俺らにからかわれるとでも思ったのだろうか。そんなこと気にするような人だとは思ってなかったけど。
着替えはじめた先輩を肘でつつくと、先輩はなんだか困ったような顔をする。
「そんなにラブラブに見えたか?」
「そりゃもう! ベタ甘っスよ。はたからみたらどう見てもバカップルっていうか」
「ほう」
仁王先輩もニヤニヤしながら相槌を打つ。
でも俺は何も誇張して言っている訳ではない。本当にラブラブに見えたのだ。
そりゃもう、相当にお互いのことが好きなんだろうなっていうのが誰にでもわかるくらいに。
なにしろ先輩がパフェを分け合うくらいだ。そう仁王先輩に熱弁していると、間に挟まれた丸井先輩がジャージを着込みながらボソッと言った。
「勝手に盛り上がんのは良いけど、あいつは俺の妹だぜ」
「……は?」
妹? 俺は一瞬、それが嘘じゃないかと疑う。
「なんだよ。疑ってんのか?」
「や、だって、ふつう兄妹でパフェの食べさせ合いっこなんてしないっしょ」
そうなのだ、先輩と彼女(仮)は、あーん、とお互いの口にパフェを運び合ったりしていたのだ。
普通の人間ならそんな行為を見てそれが兄妹だなんて思わないだろう。
俺はためしにちょっと、自分の姉貴とパフェを食べさせ合う姿を想像して、……ゾッとした。
「別におかしくねえだろ。ま、年子だから一コしか違わねーし、友達感覚で育ったかもしんねえけど」
「友達感覚っつーか……どっちかってーと恋人感覚、なんじゃないッスか?」
「丸井はちゃん大好きだからの」
「当然だろぃ」
こっちもジャージに着替えた仁王先輩がそう言うと、丸井先輩は当然のように頷いた。筋金入りのシスコンらしい。
それにしてもこの口ぶりからすると、仁王先輩には昨日の相手が丸井先輩の妹だったことがわかっていたみたいだ。ちぇ、俺が騒いでんのを面白がっていただけなんだろう。
「その、ッスか? ってことは、俺とタメなんスね」
「おい赤也、呼び捨てにしてんじゃねえよ。は俺に似て可愛かっただろぃ。惚れんなよ」
丸井先輩は半眼で凄んだあと、笑顔になって自分の妹のことを語る。冗談めかして付け足された「惚れんなよ」のときにはでも、怖いくらい真顔だった。おいおい!
まあ言われてみれば、目のあたりとか結構似ていたかもしれない。
機嫌を取るつもりでもなかったけれど素直にそう言うと、そうだろぃと先輩は満足げだった。
満足げついでに携帯を取り出し、ちょっと見てみろというので仕方なく画面を覗き込む。
先輩がいじる『家族』というフォルダの中には確かに昨日見た女の写メがいっぱいあった。
先輩の弟たちらしいのと一緒に写ってるのもあったし、先輩とツーショで写っているのもある。
……寝顔まで撮っているのには、ちょっと引いた。
「あいつ、普段は寮生活だからな。久々に帰ってきたんでパフェでも奢ってやろうかと思ったんだけど、結局半分くらい俺が食べちまったんだよ」
「うーん、なるほど。謎は全て解けたッス。先輩がシスコンってことも…イテッ!」
最後のは余計な一言だったらしい。エルボーをかまされた。
チッ、図星だから怒るんだよな。だって間違いなくシスコンだ。しかも重度の。
「お前たち、何をグズグズしている! 着替えたのならさっさと来い!」
突然部室の扉が開いて、真田副部長が仁王立ちで怒鳴る。
丸井先輩と仁王先輩はへいへいと言いながら出て行ったけど、やべえ、俺まだ着替え終わってなかった!
「赤也! 早くしろ、走らされたいのか!」
「う、うぃッス! すぐ行きますって!」
ちきしょー、丸井先輩のせいなのに!
急いでジャージを着ながら、ふと昨日の光景を思い出す。
アーンしてパフェを食べさせてくれる先輩の妹。あれが噂のご奉仕か!
相手が妹であることを置いとけば、ちょっとだけ……いや、正直かなり羨ましい。
次帰って来るときは会わせてくれねーかな、と思った。
甘い10題 1.半分個したパフェ TOY様
09.1.27