俺彼女できたから、とブン太に紹介されたのは同じクラスのだった。
俺はそのとき、失恋した。

のことをはっきり好きだ、と思っていた訳ではなかった。
ただふとした瞬間に目に入り、なんかいいな、と思っていた程度だ。
けれどブン太に彼女だと紹介されたとき、自分でも驚くほど落ち込んだ。
……よりによってブン太かよ、と、そこが余計俺を打ちのめしたのかもしれない。

ブン太はいい奴だ。俺はよく面倒事を頼まれたり(押しつけられたり)とばっちりを食らったりするが、それでも悪い奴じゃない。気の合う仲間でもある。
とブン太が恋人同士になったことは、祝福してやりたいと思う。

だが困ったことに、あいつらが付き合うようになってから俺はますますを好きになる一方だった。
がブン太の彼女になったことで、前より接点がかなり増した。
今まで大して話をしたこともなかったが、今ではブン太と三人でメシを食いに行ったりゲーセンで遊ぶこともある。
ブン太が席を外して二人きりになるときなんて、俺はどぎまぎしてしまいたまらなかった。

「ジャッカルくん、昨日はありがとう」

三人で喫茶店でケーキを食べた次の日など、は教室でそう声を掛けてくる。
ブン太に影響されたらしい、俺の呼び方もいつしか「桑原くん」から「ジャッカルくん」になっていた。
俺はいいのかよ、と思ったが、ブン太は特に気にしていないらしい。
……どちらからも信用されている、ということなんだろうか。ちょっと複雑だ。

それはともかく、は必ず自分が食べた分のケーキ代を持ってきた。
大抵俺が(なぜかブン太の分まで)払っているから、律義に返しにくるのだ。

「あぁ、悪いな」
「ううん。こっちこそいつもごめんね」

ブン太の分と自分の分、両方の代金を払おうとするに最初は気にするなと断っていたが、もなかなか引かないので妥協案での分だけもらうことにしている。
まぁそうなるとブン太がちゃんと払え、って話になるんだが、が言っても改善しないから無駄だろう。
それに俺はと二人だけの接点を持てることが嬉しかった。
……我ながらなんだか情けない接点だが。

そんなこんなで、俺はあいつらの恋人関係を一番近くで見ながら、を諦められないでいた。
それどころか気持ちは強くなるばかりだ。
の近くにいられることが幸せに感じながらも、時々ため息が止まらなくなる。

そんなことを考えながらついまたの方を見てしまった。
するともこっちに気づく。
にこりと自然に微笑みかけられて、曖昧に視線を逸らしてしまった。
もう一度ちらりとを見ると、不思議そうな顔でこちらを見ている。
そのままがこっちに向かってきて、なぜだか無性にやばい、と思う。

「どうかしたの? ジャッカルくん」
「い、いや。なんでもねぇけど」
「そう? 大丈夫?」

様子のおかしい俺をは気遣ってくれているらしい。
だがそうやって首を傾げながら無防備に顔をのぞかれると、たまらない気持ちになる。

「あっ、そうだ、アメあげる」

はポケットから無造作に飴玉を取り出すと、にこにこしながら手を突き出してくる。
俺はブン太じゃねぇんだけどな、と思いながら無下にする気にもなれず、受け取ることにした。
指がそっと触れて、どきりとする。

「これはね、コーヒー味だよ。ジャッカルくん用」

俺用だって?
から渡された飴玉の袋は確かにいつもブン太にあげているのとは違う、カラフルではなく黒いものだった。
俺は確かにコーヒーが好きだ。
何度か一緒に喫茶店に行っているはそれに気づいていたのだろう。
たまたま持っていたのがコーヒー味だったのか、それとも本当に俺用に用意してくれていたのか。
真意を問う間も心の準備もできない内に、チャイムが鳴った。

「サンキューな」

じゃぁね、と席を離れようとしたにやっとそれだけを伝える。
が振り返り、俺の目をしっかり見て華やかに笑った。

ほろ苦い飴玉を口の中に転がす。
もう限界だ、そう思った。

悪ぃな、ブン太。俺はを奪いにいくぜ。


目が合うと、どうしていいのかわからない  12.2.27