おしゃべりしながら編み物をしていると、後輩のコが楽しそうに耳打ちしてきた。
「先輩、彼氏さんじゃないですか?」
えっ、と驚いて家庭科室の入り口を見れば、確かに赤也くんがこちらを覗いている。
私が気づくと「よっ」と手を挙げて堂々と入り込んできた。
「ち、ちょっと、赤也くん!?」
彼はジャージ姿で、ラケットも小脇に抱えたままだ。
どうやら部活を抜け出してきたらしい。
「部活は? 雨でなくなったの?」
「そ、筋トレになったの。うっせー先輩たちも委員会でいないし、抜けてきた」
今日は大きな委員会会議で、うちも部長の先輩が部活をお休みしている。
テニス部もあの厳しい先輩たちがこぞって留守にしているのだろう。
隣に座っていた後輩が「どーぞどーぞ」なんて席を譲り、赤也くんも「あ、どーもお構いなく」なんて言いながら譲られた席に躊躇なく腰かけた。
「見てていい?」
「別にいいけど、面白くないと思うよ」
手芸部の活動は地味なものだ。
はたからみても単純作業が続いているだけで面白くもなんともないだろう。
特に赤也くんなんてすぐ飽きてしまいそうだ。
「なに作ってんの?」
「マフラー」
案の定というか、赤也くんはだらんと頬杖をつきながらすぐに話しかけてきた。
「へぇ。俺にくれんの?」
「あげないよ。自分用か家族用」
あぁ、びっくりした。
手作りなんてあげられる訳がない。重いと思われて終わりだろう。
「なんで? 俺、欲しいんだけど」
きょとん、と返されて返答に詰まってしまった。
「なぁ、いいだろ。俺にちょうだい」
「あ、あの……だったら、買ってプレゼントするよ」
「あのなぁ、俺はアンタの作ったやつが欲しいの」
赤也くんはなんで私が好きなんだろう、と時々つくづく思う。
彼はもっと、例えばバスケ部とか、吹奏楽部で活躍する華やかな女の子が好きなのかと思っていた。
怖いから聞いたことなんてないけれど、それでも愛されてるなぁと実感できるのがとても嬉しい。
「これは自分用にデザインしたから……じゃぁ、赤也くんのも作るね」
「おぅ。かっこいいやつよろしく」
「できるだけ頑張るよ」
難しいリクエストもきてしまったけれど、どんなのにしようかな。
頭の中で早速彼に合う色や柄を考えてしまう。
そして赤也くんは、すぐにいびきをかきながら寝てしまった。
無理に起こすのも忍びなく、後輩にごめんね、と言うと微笑ましそうにいいですよ、と言われてしまった。
「……」
なんて、時々寝言で名前を呼ばれるのがたまらなく恥ずかしくて、幸せだった。
しとしとと降り続ける雨はまだ止みそうにない。
今日は傘を並べて帰ることになりそうだ。