「なぁ、今度の日曜ケーキバイキング行かねぇ?」
「ごめん、その日はちょっと……」
「またかよ!? こないだははとこ、その前はいとこ、今度は誰の結婚式だ?」

にデートを断られるのもこれで連続三回目だ。
最初はへぇ、めでたいじゃん、なんて信じていたけれど、はとこのときから疑いを持ち始めていた。
付き合い始めて数カ月。も食べることが大好きだし、調理部だけあって料理がうまい。
部活のない日はいつもデートだってしてるし、登下校も一緒だ。
うまくいってると思ってたのに、最近のは様子がおかしかった。

「……お前、浮気でもしてんじゃねぇの?」
「違うよ! そんなわけないでしょ!」
「だったらなんでだよ!?」

怒鳴るように理由を聞くと、は押し黙った。
言い訳もできねぇってのか? なんなんだよ!

「……ったの」
「は?」

思い切り俯いたがなにかをぼそりと呟いた。
俺は耳を近付けて、もう一回言ってみろぃ、と促す。
するとは、俺の耳元で大声でこう叫んだ。

「太ったのよ!! ブン太と付き合い始めてから、8キロも!!」

キーン、と耳鳴りがおさまるまでの間くらい、俺は呆気にとられていた。

「……なに? そんだけ?」
「そんだけ、って……」

は両手を握りしめてわなわなと震えだした。
顔が真っ赤で、目には涙まで浮かんでいる。
……おいおい、まじかよ?

「別に太ってねぇだろぃ。変わんねぇよ、前と……あ」
「な、なによ! やっぱり太ったって思ったんでしょ!」
「いや……そういや、触ったときの感触がなんかやわらかくなったな、って思ったな」

俺は全然悪い意味で言ったんじゃないのに、は「やっぱりー!」とわめきだした。
今までため込んでいたらしい文句を一気に並べ立てている。

「ブン太はいいよね。いくら食べても部活で消費するから。私なんて、調理部だよ!? 部活だってやればやるほど太るんだよ!! 休みの日はデートでいっぱい食べて、平日は部活で食べて。寄り道してまた食べて。ブン太が作ってくれるケーキもめちゃくちゃ美味しいし!!」

腹に手を当てながら、は涙ながらにしゃべり続ける。
俺は正直、半分聞き流していた。
浮気じゃなかったことに安堵しすぎていたのだ。
そろそろ別れようなんて言われるんじゃないかって、焦ったぜ。

「もうね、これは立派な暴力だよ。拷問だよ。だから私、ダイエットを始めたの。休みの日は走ったり、泳いだり。元に戻るまではブン太とのデートはおあずけだって、そう言い聞かせて必死にダイエットしてたの」
「お前なぁ、それならそうと俺に言えよ。こっちだって最近お前の様子がおかしい、って悩んでたんだからな」
「それは……ごめんなさい」

言いたいことを言いつくしたのか、黙っていて悪かったと反省しているのか、は途端に静かになった。
ったく、しょうがねぇなぁ。人騒がせなヤツ。
ま、そういうところも嫌いじゃねぇけどな。

「だったら次から俺も付き合ってやるよ。ランニングでも水泳でも」
「えっ……ほんと!?」
「あぁ。まぁ、俺にも責任がなくはねぇし」
「っていうか、おおありなんだけど! でも、食事制限もしてるからね? 運動のあとでもばくばく食べたりしないよ?」
「うっ……まぁ、お前の前では俺も控えるよ」

俺はぷにぷにしたもいいと思うけれど、「痩せるまでデートしない!」なんて決意をされちゃぁ仕方ない。

「そんじゃ、今のやわらかい抱き心地は今のうちに堪能しとくか」

をぎゅっと抱きしめる。
おとなしく腕におさまったは、「不安にさせてごめんね」ともう一度謝った。

「もういいよ」

重ねた唇の感触だけは、が太ろうが痩せようが、ずっと変わらないままだ。


映画タイトルで100の挑戦(フランス映画編)  009:甘い暴力
映画タイトルで100の挑戦
11.11.16