鏡の前で私は自らを着せ替え人形にしていた。
お気に入りのワンピースからタンスの肥やしになっていた服まで全部取り出して、あれやこれやと組み合わせてみては着ては脱いでの繰り返し。
自分の好みよりも、優先すべきは彼の好みだ。
無駄が嫌いな彼のことだから、衣装もシンプルで機能的なデザインが好きなのかな。
それとも、女の子らしい格好が好き?
若草色が好きだと聞いていたけれど、生憎一着も持っていなかった。
服を地面に拡げまま、今度はアクセサリーはどうしよう、と考え始めてしまう。
下着姿のままアクセサリーボックスを漁った。
滅多につけないイヤリングをつけていこうかな。
リングはもし、万が一、手を繋いだとき邪魔になるかもしれない。
ふとそれを想像して、顔が熱くなってしまう。
白石くんと手を繋ぐなんて、それだけで倒れてしまうかも。
ボックスを開いたまま妄想していると、ベッドに放り投げていた携帯が鳴り出した。
飛びつくように見ると、白石くんからの着信だった!
「はいっ」
『さん? 今ええ?』
紛れもない彼の声だ。
ぐっと痛いくらい耳に携帯を押しつける。
「うん、大丈夫」
『急に悪いな。日曜日のことやねんけど』
「う、うん」
『11時に横浜駅でええかな』
「わかった、11時ね」
『メールで伝えればええ話やってんけどな。なんやさんの声聞きたなって電話してもうた。堪忍な』
耳に響く声はとても甘く誠実で、私をとろけさせるほどに熱い。
吐息まで伝わってきた気がして思わず息を飲み込んだ。
「へくしっ」
けれど、汗が出そうなほど熱を感じている私の身体は彼の甘い囁きにくしゃみで答えてしまった。
やだやだ、なんでこんなときに!
『さん、風邪か!?』
「ごめん、大丈夫。今服着てへんかったから」
『な、なんや、風呂でも入るとこだったんかいな。悪いな、変なときに電話してもうて』
「ううん、気にせんといて」
日曜日に来て行く服を選ぶためにひとりファッションショーしていた、なん恥ずかしくて言える訳がない。
幸い白石くんは追求しようとはしなかった。
『ほな、また電話するわ。風邪引かへんよう気ぃつけてな』
「うん、おおきに。またね」
少し沈黙が続いたけれど、優しい声で先に切ってほしいと白石くんが言ってくれたので、おやすみなさい、と言って通話を終えた。
まだ余韻でふわふわとしてしまう。
お父さんの転勤で四天宝寺から立海に転校することになったとき、ずっと好きだった白石くんとも離れることになってとても辛かったけれど、彼はテニス部の用事で関東に来るたびに私に会ってくれた。
今回も土曜日にテニスの用事があるけれど、日曜日は一日付き合ってくれるのだ。
そう、つまり、デートだ!
あぁ、ネイルはどうしようかな。
日曜日までにやらなきゃいけないことがたくさんある。
けれど全部が楽しくて、私には世界の全てがきらきらと輝いて見えた。