彼がどんなに落ち着いていて思慮深く、大人びた顔立ちをしていても、世間的に中学生というものは紛れもない子供だった。
けれど彼の前では、一回りも年上の私こそが子供のようになってしまう。
「蓮二」
「どうした?」
育ちがよく礼儀正しい蓮二も、恋人同士になってからは私の前
では敬語をやめてくれた。私は彼の学校の先生でもあるので、もちろん、二人きりのときだけだ。
独り暮らしの私の部屋でぴったりとくっつき合う私たちは、二人で一匹の温かい猫のようだった。
長い間そうしているから、小さなローテーブルに置かれた緑茶はとっくに冷めきっている。
やわらかい声で尋ね返してきた蓮二に、私は返事をしなかった。
蓮二の腰に回した腕にぎゅっと力をこめて、胸に頬を擦りつける。
私は蓮二を愛してしまった。
そこには彼がまだ中学生だとか、教師と生徒の間柄だとかそんな倫理の抵抗する隙間はまったくなかった。
そして蓮二もまた、そんな馬鹿な大人を愛してしまったのだ。
「……そろそろ、帰らなきゃね」
夜ご飯もとうに済ませ、夜はすっかり更けていた。
部活で遅くなることも多い蓮二は、うまく親御さんたちに隠しているようだけれど、彼の家族は蓮二の帰りを家で待っているだろう。
「……そうだな。では、失礼する」
私への罰かのように彼は素直に立ち上がった。
帰そうとしたのは私なのに、ついその手に縋りついてしまう。
「さん」
彼は困ったな、という表情で私を見下ろした。
大人のような顔だ。
けれど彼は、決して私を呼び捨てにしようとしない。
蓮二は静かに腰を落として肩に手を掛け、私にキスした。
「また、明日」
それは恋人同士としてではなく、教師と生徒としての再会だ。
「待って。雨が降るといけないから」
薄暗いままの玄関で、彼に折り畳み傘を差し出した。
降水確率なんて知らない。もしかしたら0%かもしれない。
蓮二はその答えを知っているだろう。
けれど彼は戸惑いも見せず「ありがとう」と受け取ってくれる。
きっと明日、学校で、誰にも見られないようにこっそりと、それを返しにきてくれる。
この傘は日常に潜ませた恋人としての証だ。
蓮二が一口だけ口をつけた緑茶を飲み干す。
彼の好みに合わせた味は少し私には苦かった。