先輩!」
「ん、なあに? 喜三太くん」

呼び止められて少し腰を落とすと、喜三太くんは背伸びして私の頬に口づけした。
はにゃーっと両手で口をおさえてぱたぱた駆け去っていく。
苦笑して見送る、乱太郎くんに続いて今日はこれで二人目だ。
一年は組では最近、私の頬にキスをするゲーム(?)が流行っているらしい。

避けるのは簡単だが、それもなんだかかわいそうな気がする。
それに恥ずかしがりながら一生懸命背伸びしてキスしてくる彼らはどうしようもなくかわいい。
だからついつい受け入れてしまうのだ。

! またか! どういうことだ!」
「も、文次郎……」

だがそれをよしとしないのは、恋人の文次郎だった。
今にも殴りこみにいきそうな鬼の形相で拳を握っている。

「一年は組め。今日という今日はただじゃおかねえ。成敗してくれる!」
「お、落ち着いてよ! 下級生相手にみっともない!」

忍者服をひっぱって引き止めると、文次郎はぐりんと振り返る。
あ、やばい。これは私も怒られる。

「大体なんだ、おまえは! のこのこと口づけさせやがって! どういうつもりなんだ!?」

ひえー、やっぱり。矛先がは組を逸れたのはいいけど、今度は私に直撃だ。
一年生相手にそんなにムキにならなくてもいいのに……。

「も、文次郎!」
「なんだ! 言い訳は聞かんぞ!」

ご立腹の彼の肩にそっと手を添え、私はうんと背伸びした。
文次郎の唇に自分の唇を重ねる。
キスにはキスを、だ。

「! ……」

そっと離れて目を開けると、文次郎は両目をがんと見開いて固まっていた。
どうやら怒りはおさまったらしい。ほっと息をつき、にっこり笑ってみせる。

「は組にキスされたら、私からも文次郎にキス一回。どうかな?」

ちょっと恥ずかしいけれど、好きな相手には何回でもキスできる。
は組の子たちも私を嫌って口づけてくるわけではないのだから、彼らが飽きるまでは付き合ってあげたい。
そこで提案してみた折衷案なんだけれど。文次郎はうむむと唸ったまま、だんだん顔を赤くした。

「今日のところは、これで許そう」

くるっと百八十度転回し、彼は同じ方の手と足を一緒に出しながら歩き去っていく。
そんな反応をされると、私も余計恥ずかしくなってしまうんだけれど。
喜三太くんがキスしてくれた頬はほんのりあたたかいけれど、唇は火傷したみたいに熱かった。



いろいろなキス  05 背伸びして  09.2.17