くのタマのはわたしのことが好きなはずだ。
なぜならわたしが彼女のことを好きだからだ!
この滝夜叉丸が好きになった相手がわたしのことを好きにならないはずがない。
たとえばわたしが好きだと告げて、万が一にも振られることなどないだろう。

「だったらさっさと告白すればいいだろう」

田村三木ヱ門がとげとげしい声音で言う。
わたしとが両想いだから僻んでいるのだ。まったく、男の嫉妬は見苦しくて嫌だ。
口に出したら、図星をつかれて怒ったのか何やら喚きながら去って行った。
だから見苦しいというのだ! このわたしとは大違いだな。

「滝夜叉丸、図書室できみの想い人を見たよ」
「ん? ……そ、そうか」

三木ヱ門と入れ替わるようにやってきた喜八郎はそれだけを告げてすたすた去って行く。
……なんだか通り魔的だが、まあ情報は有益だったので良しとしよう。
彼女は図書室でわざと喜八郎に目撃され、わたしに情報が渡るのを期待したのだろう。
そうに違いない。きっと会いにきて欲しいのだ。

『さっさと告白すればいいだろう』

三木ヱ門のセリフがなぜかリフレインする。
もちろん。もちろん、わたしが告白すればもきっと、大いに喜ぶだろう。涙を流して。いや、それもいいが笑ってくれた方がわたしは嬉しいな。
ともかく、怖いことなどない。成功するとわかっていることが怖いはずがない。
だから図書室に向かいながら心臓が跳ねているのは、そう、胸が高鳴っているだけだ。
決して緊張しているわけではない。ときめいているだけなのだ。

図書室に入る、受付でぬっと座っている中在家先輩に軽く会釈し、首をめぐらせた。
喜八郎の言う通り、がいた。窓際で、膝の上に本を開いたまま格子に寄りかかるようにして目を閉じている。近づくと自然な寝息が聞こえてきた。

「……」

きゅうっと、胸が締めつけられる。それにしてもこの部屋はなんだか暑いな。
しかし、が寝ているのならば仕方ない! 寝ている間に告白しても当然返事はもらえないだろう。
いや、仕方ない。実に残念だ。わたしと彼女が相思相愛であることがいまこそ証明されようとしていたのに。

一歩、もう一歩近づく。は起きない。まったく、わたしが敵だったらどうするのだ。
やはり彼女にはわたしのように優秀な者がついていなければだめだ。そばで守ってやらなければ。

のそばでそっと腰を落とした。
窓から吹き込む風で彼女の膝にある書物がかさりとめくれる。
格子に手を掛ける。静かな呼吸が奏でられる、薄く開いた彼女の唇に自分のそれを重ねた。

「! ……」

わ、わたしは何をしているのだろうか。
いや、少し、たった少し触れただけだ。が起きることもないくらい、かすかに。
それにもし気づいたとして、彼女が嫌がったりするはずがない。わたしの口づけを。

近づいたときと同じくらい慎重に一歩ずつ後ずさる。
十分に下がった、と思ったときはもう図書室の入口で、わたしは中在家先輩がいたことも忘れてダッシュで図書室を離れた。


「なにしてるんだ、滝夜叉丸のヤツ……」

ちょうどのいた場所が見える木の上から、わたしは事の一部始終をばっちり目撃していた。
実のところろくに話もしたことがないくせに両想いだと信じているあいつの目を覚まさせてやろうとけしかけたのに、あいつはさらに上をいくことをやってしまった。

「滝夜叉丸も結構やるねえ」
「感心するところか、喜八郎」

しかし、キスされてこんこんと眠り続けるだ。単純と鈍感で意外とお似合いなのかもしれない。
滝夜叉丸に学園のアイドルであるこのわたしより先に彼女ができるなんて認められないが。

「それにしても三木ヱ門、顔が真っ赤だね。そんなに刺激的だった?」
「う、うるさい!」

喜八郎を蹴り飛ばそうと思ったら、あっさりとかわされわたしが木の上から落ちてしまった。
くそ、すべて滝夜叉丸のせいだ!
しかもわたしの落ちた音で起きたらしいと目が合ってしまった。
唇に視線が吸い寄せられる。だいじょうぶ? とかたどられたそれを無視し、わたしはダッシュで逃げ出した。
まったく、滝夜叉丸め! 絶対に邪魔してやるからな!

「おやまあ。青春だねえ」



いろいろなキス  03 触れるだけの  09.2.17