一緒にプリクラでもどうじゃ?
……いや、いっそのこと、次はプリクラを撮るぜよ、と軽い感じで言ってみたらどうか。
なんてどうやって誘えばいいかぐるぐると悩んでいるうちに、とんでもないハプニングが起きてしまった。
「ねぇ、仁王くん、あれって丸井くんたちじゃない?」
「……なんだって?」
恐る恐る振り向くと、確かに向こうにブン太とジャッカルに赤也、それに心なしか小さくなっている柳生がいた。
みんなこっちを見ていて、挙句ぶんぶんと手を振ってくる。
なんてことじゃ。
「さん、ちょっと待っとってくれ」
「え、でも……」
「ええから。すぐ戻る」
よりによって面倒な奴らに見つかってしまったもんじゃ。
頼むから邪魔をせんよう釘を刺さんと。
……いや、多分もう、柳生が言ってくれて聞かなかったんじゃろうが。
「よう仁王、初デートだってな。おっめでっとさん」
「仁王先輩、俺にも彼女さん紹介してくださいよ!」
「悪いな、仁王。邪魔しちまったみたいでよ」
頭が痛くなってきた。
柳生の方を見ると、「申し訳ありません、仁王君。彼らに見つかってしまいまして……」と神妙な顔をして謝ってきた。
どのみちこいつらに見つかるのは時間の問題だったろう。
……さっさとプリクラブースに移動できていれば話は別だったのかもしれんが。
「赤也、紹介なら今度する。悪いが今日は構わんでくれ」
折角のプランが台無しだ。
いや、結構もう自分で台無しにしてしまったところもあるが。
「えー? 今じゃダメなんスか? ……ん? 仁王先輩、彼女さん男に話掛けられてますよ!」
「な、なに!?」
「あれって山吹の千石じゃねぇ?」
「あぁ、そうみたいっスね! ってことは、100%ナンパだな」
「……!」
いったいなんなんじゃ、次から次へと!
俺はまた猛然とさんのもとへ走った。
「君、可愛いね。神奈川のコもレベル高いなあ」
「あ、あの……」
「ね、俺と一緒に遊ばない? 楽しませてあげちゃうよ」
「か、彼氏と来てるので……」
「えぇっ? どこどこ? カレシなんてどこにいるのさ?」
「ここじゃき」
わざとらしくキョロキョロしている千石とさんの間に割って入った。
千石がぎょっとしている。
「うわっ! 立海の仁王君!?」
「なんでお前さんがこんなところにおるんじゃ、千石」
「いやぁ、神奈川の女の子たちを見に来ただけだよ」
千石ならありえる、と納得しそうになったが、制服な上にラケットバッグを持っている。
この辺の学校と練習試合にでもしにきたんだろう。
「それにしても、まさか仁王君の彼女とはね。君も隅に置けないねえ。でも、大切な彼女なら目を離しちゃダメだよ。俺みたいなのに連れてかれちゃうかもしれないからね」
「……」
「あはは、ゴメンゴメン。余計なお世話だったかな」
反論できなかった。千石の言うことは正しい。
さんを一人にしてしまったのは俺だ。
「あ! 千石先輩、発見です!」
「おっと、壇君。見つかっちゃったみたいだね」
「早く行くです! バスが行っちゃいます!」
わかったわかった、と笑う千石の腕をひっぱる後輩が、一瞬こっちを見て驚いたような顔をした。
だが余程慌てていたのだろう、ぺこりと一礼だけして千石を連れて去って行く。
……ようやく嵐が過ぎ去ったようだ。
「さん、すまんかった。一人にして」
「ううん。すぐ助けに来てくれたじゃない。ありがとう、仁王くん」
さんはそう言って微笑んでくれる。
もう絶対目を離さない。
そう心の中で誓って目が合った瞬間、どきりとしてついぱっと逸らしてしまった。
「そういえば、丸井くんたちは?」
「あ、あぁ……」
そうだった。まだ大きい嵐が残っていた。
けれど振り向くと、四人ともいなくなっていた。
どうやらようやく気を利かせてくれたらしい。
何かあったときのために柳生についてきてもらっていたが、さすがにあいつも帰っただろう。
もうフォローはしてもらえない。
「帰っちゃったかな? 私たちもそろそろ出ようか」
「そうじゃな……」
返事をして息をのみ込む。
結局プリクラを撮ろう、と言いだせなかった。
なんでさんの前だと自分はこうなんだろうか。
我ながら情けなさ過ぎて呆れてしまう。
「あっ、ねぇ、その前にプリクラ撮りたいな」
さん。
「あぁ、俺もそう思っとったところじゃ」
緊張しすぎてほとんどまともに撮れなかったが、できあがった写真を何度も見返したいほど嬉しかった。
夕暮れの公園をゆっくりと並んで歩く。
今日のデートのクライマックスだ。
柳生との計画を思い出す。
「いいですか、仁王君。最後の公園では、きちんとさんの手を引いてエスコートして差し上げるのですよ」
どうせそれまでは手も繋げないだろう、と言外に言われたようなものだが、実際その通りだったのだから仕方ない。
今まで学校の帰り道でだって結局一度も手を繋げたことはなかった。
今日こそは。いつも以上に、俺だってそう思ってはいる。
「今日、楽しかったね」
「……あ、あぁ」
悶々と機会をうかがっていたら、一瞬反応が遅れてしまった。
俺の顔を覗き込んでくるさんの表情がどこか不満そうに見えて焦る。
「ねぇ、仁王くん」
慌てて楽しかった、と返そうとすると、さんはゆっくりと、でも強い口調で呼びかけてきた。
「今日ね、私、すごく緊張してたんだ」
そうだったのか。さんは今日もいつも通り微笑んでいて、優しくて、そんな風には見えなかった。
そのせいか俺もだ、とは返し辛く、黙って続きを待つ。
「でも、それ以上に仁王くんとずっと一緒にいられることが嬉しかった」
さんの横顔を見て、いつもはしていないマスカラをつけていることに初めて気づく。
今は夕日の色に染まる頬はずっと淡く色づいていたはずだ。
いつもと違う髪も、彼女によく似合うワンピースも、どんな気持ちで選んでくれたんだろうか。
「さん、悪かった。俺、全然余裕がなくて……」
「違うの、謝って欲しいんじゃないの。仁王くんがきっと今日のこと、色々考えてくれたんだろうってわかってる」
さんは慌てて俺の方を向いた。
もしかしたら、柳生と計画を立てていたのもバレているのかもしれない。
「そうやってちゃんと考えてくれるのってすごく嬉しいよ。でもね、仁王くんとなら一緒にいられるだけで楽しいから」
俺たちはいつの間にか立ち止まって、お互いに俯きながら向かい合っていた。
ときどき人が通って俺たちをちらりと見ていくが、そんなものは全く気にならなかった。
「ゆっくりでいいの。気負わないで、お互いのことをちゃんと見ながら、一緒にいたい」
そうやってさんは、いつものようにやわらかく微笑む。
今日はずっと水の中を走っているような感覚だったが、さんが好きだ、という気持ちでいっぱいになると息を吹き返したような気分だった。
「だから、その……これからもよろしくね」
さんははにかみながら、そっと手を差し出してくれる。
彼女に必死に告白したときのことを思い出す。
俺はさんのことがたまらなく大好きで、彼女もそんな俺を好きだと言ってくれる。
彼女の前ではいつも情けなくて、空回りばかりの俺を、それでも一緒にいたいと言ってくれるのだ。
さんとは反対の手で、彼女の手を握り返した。
「……このまま手、繋いでてもええ?」
「うん、もちろん!」
これからもきっと、かっこ悪いところばかり見せてしまうだろう。
でも彼女は、そんな俺ときちんと向き合ってくれる。
だから俺も、自分自身の気持ちにばかり振りまわされていないで、ちゃんと彼女を見つめていよう。
互いの鼓動と熱を手のひら越しに感じながら、俺たちは同じ幸せを確かに感じていた。
そしてそれは、十年先も二十年先も変わらない。
ただひとつ変わることがあるとすれば……。
「……」
「やっと、名前で呼んでくれたね。十年待ったよ? 雅治」
昔と変わらない笑顔で、が俺の名前を呼ぶ。
俺がの名前を呼ぶことができたのは、ついに入籍してがさんではなくなってからだった。
ちなみにこの話は、披露宴の余興を頼んだ立海テニス部の面々(特に丸井と赤也)により、会場中を爆笑させた。
俺はきっとこれからも、の前では緊張してしまうだろう。
余裕がなくてかっこ悪いところをたくさん見せて、それでもは優しく微笑んでくれるのだ。
俺はずっと、青く揺れる中学生のときみたいに、に恋をし続ける。
end.
Thanks for reading!
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ヘタレの恋心 15.1.22