「それでは二人から三人組で組んで、お互いの顔をデッサンしてください」

先生がそう言ってぱんぱん、と手を叩くと、にわかに教室が騒がしくなる。
私はスケッチブックを抱えて、仲の良いりっちゃんの方を向いた。

、一緒やろー」
「うん」

りっちゃんも同じことを考えてくれていて、隣に来てくれた。
サンシャインに新しいお店入ったねー、なんて早速世間話をしながら、お互いのんびりとデッサンの準備を始める。

さん、一緒に組まない?」

そこに横から声を掛けてきたのが、なんと折原くんだった。
私はもちろん驚いていたけれど、それ以上にりっちゃんが驚いた顔をしていた。
そういえば折原くんと話をするときは二人きりのときが多かったな、と思い出す。

「ああ、君も一緒でいいよ。俺はさんの顔が描ければいいから」

折原くんはそう言いながら、もう傍の椅子に腰掛けて答えを聞く気もないみたいだった。
私は何も言えずに困ってりっちゃんの方を見る。
りっちゃんはなにか問いかけるような表情をしたけれど、黙って首を振ると私に向かってこっそり手を合わせた。

「私、ミツたちの方に入れてもらうよ」

りっちゃんはもう立ち上がりながら慌てたように離れていった。
さっき手を合わせてきたのはごめん、の合図だったのだろう。
仕方がない。りっちゃんのことを薄情だとは思わない。
何しろ相手は折原くんだ。
折原くんと平和島くんは、私たちの間で関わりたくない人物ツートップだったのだから。

「あれ、悪いことしたかなあ。まあいっか。よろしくね、さん」

折原くんはちっとも悪いと思っていないであろう笑顔で嬉々として言い放つ。
その笑顔がちょっと可愛いなんて思ってしまうのだから、惚れた弱みならぬ惚れられた弱み、という感じだろうか。
席を移動したりっちゃんがミツたちと心配そうにこちらをうかがってくれている。
大丈夫、というつもりで鉛筆をひらひら振り返しながら、関わりたくない人物のはずだった折原くんに私はもうどっぷりと関わってしまっているんだなあ、と今さら実感した。

「よろしく、折原くん。私、デッサンは苦手だけど下手でも怒らないでね」
「怒らないよ。さんの目に俺がどう映って見えてるのか、楽しみだなあ」
「……プレッシャーかけないでよ……」
「あははっ、ごめんごめん」

折原くんはすごく機嫌が良さそうに鉛筆をくるくる回している。
なんだかまたおかしなことになってしまったなあ、と内心でため息を吐く。
けれどこうなってしまった以上は仕方あるまい。
相変わらず流されてるな、と思いながらスケッチブックを持ち直す。

ざわざわと賑やかにデッサンが始まった教室で、私たちは黙ってお互いの顔を見つめる。
……まずい、なんかすごい緊張してきちゃった。
ぎこちなく視線を外しながら紙に鉛筆を走らせる。
けれど折原くんにじっと見つめられている気配がして、どうにも落ち着かない。
輪郭を描いたつもりの線が歪みまくって、早くも消しゴムの出番となった。

スケッチブックをキレイにしてからまたちら、ちらと折原くんを見るけれど、やっぱりじっと見られると見つめ返すことができない。
折原くんがスケッチブックに目を落とすと、ようやく彼の顔を見ることができた。
こんな調子じゃもたないよ、と幸先不安になりながら、彼の顔を観察する。

色が白くてまつ毛が長くて、やっぱりとてもキレイな顔をしている。
これでもっとまともな人だったらすごくモテたんだろうなあ、なんて考えながら見とれていると、彼の異変に気付いた。

「……折原くん?」
「言わないで、さん。自分でわかってるから」

折原くんは大きなため息を吐き、手で顔を隠して思い切り背ける。
彼の顔、耳から首筋まで、赤くなっていた。

「自分で誘っておいてなんだけど、これは照れるね」

……そんなことを言われたら、こっちまで恥ずかしくなってきてしまうじゃない!

「ね、ねえ、今からでもペア変えない?」
「それはダメ。俺いま幸せなんだから」

指の隙間から折原くんは目を細めて笑った。
ぐ、と息が詰まる。
ふう、と少し落ち着いたらしい折原くんがまだ少し火照った顔を私に向ける。

「参ったなあ。俺、君のことどんどん……」

独り言のようにつぶやき、さらさらと鉛筆を走らせ始めた彼がその続きを紡ぐことはなかった。
思わせぶりな態度が素なのかはわからないけれど、私を自意識過剰にさせるには十分だ。
どんどん好きになっていくよ、と、耳にしていないはずの声が勝手に頭の中で流れてしまう。

程よい喧騒の中で私たちは黙々と、交互にお互いの顔を眺めながら相手を描き出していく。
完成したスケッチブックの中で、折原くんはとても優しい表情で俯いていた。


美術の時間   11.2.6
♪ねぇ / Perfume