『もしもし? 静雄くん?』


たくっさんの俺を愛してくれる奴らをぶちのめした後、俺はかつてないほどすっきりした気持ちでに電話を掛けた。

『電話なんて珍しいね。どうしたの?』
「ああ。ちょっとお前の声が聞きたくなってよ」
『えっ!?』

驚いた声は嫌そうではない。まあ、別に嫌がられたならそれはそれで構わない。
ただ、俺は今の声が聞けて嬉しい。

「なあ、……」
『うん?』

――好きだ。
今の俺なら、それを認められるような気がした。
ちいせえ頃から付かず離れずの距離で過ごしてきたこいつをもっと傍に置いても、もう傷つけないで済むような気がした。
力の使い方がわかった今の俺なら。

だがどうしても言葉にできない。
電話越しじゃなくて面と向かって言いたい、そんなことを考えた訳でもないが、言い訳まじりに思い浮かんだ考えは名案にも思える。
そうだ、告げんなら、しっかり顔を見ながら告げたい。

「次に会ったら、抱きしめてもいいか?」
『……』

ぐっと携帯に耳を押しつける。
聞こえてきた息遣いが少し乱れている気がした。

『どうしたの? 静雄。何か変な物でも食べた? それとも折原くんに変な薬でも飲まされた?』
「……ノミ蟲の話はすんじゃねえよ」

俺は手加減を覚えた。ああ、手当たり次第なにもかも壊したりしねえ。
証拠に右手に持った携帯は無事だ。との会話は中断されていない。
ただ左手で腰かけていた柵をちょこーっとへし折っただけだ。

『ごめんごめん。電話だと思ってつい。……ってか今、そっちで何か折れるような音がした気がするんだけど』
「気のせいだ」
『アバラ三本までなら許すよ』
「……は?」

話の続きのように、さらりとが妙な言葉を口走った。
何を言ってやがんだ、と問いただそうとした瞬間。

『抱きしめてくれるんでしょ?』

耳を撫でられたようなひどくやわらけえ声だった。
飛んでいっちまいそうなほど気持ちが良い。
急に体温があがって、顔が熱くなる。
思わず心臓を手で掴むほど鼓動が早くなった。

「……ばーか。優しくしてやるよ」

情けねえことに、声が少し震えた。
それでも耳に届くの笑い声はやっぱりどこまでもやわらかく、甘ったるくて、心地が良い。

折れた柵から俺は立ち上がった。
身体も心もひどく軽い。
今ならひとっ飛びでの元へ駆けていける気がする。
そして――

「今から行くからよ。待ってろよ、

優しく、抱きしめてやれると思うんだ。


風そよぐ夜に   10.3.3