「臨也くん」
「どうした? 。眠れないのかい?」

パジャマ代わりの、暗闇の中で発光しているように見えるほど白いワンピース姿ではこくんと頷いた。
ベッドの上で弄っていた携帯をすぐに閉じる。

「なら、おいで」

優しく優しく笑いながら軽く両手を広げるとは無言のまま部屋に足を踏み入れた。
一歩二歩とゆっくり近づく間にほとんど足音はしない。
ベッド脇で立ち止まるの腕をそっと引っ張ってやると、崩れ落ちるように胸の中に倒れ込む。

「俺は明日は早いから、あまり相手はしてやれないけど」

が頷くのを確認してから、顎をやわく掴んで唇を重ねた。

は歴とした血の繋がった兄妹だ。
おかしな兄、おかしな双子の妹に挟まれた彼女はやはりおかしかった。
ただし俺の影響を受けた双子とは違い、のおかしさは生まれつきのものだった。

折原は家族を他人だと思っている。
「血が繋がっている」という概念を生まれつき認識できていないらしい。
にとって両親は他人のおじさんとおばさんだったし、双子の妹は他人の女の子たちだったし、俺は他人のお兄さんだった。

だからは双子の妹たちとも肌を合わせるし、俺とも肌を重ねる。
ああ、どうにも飛躍した「だから」だろう。
それが家族を他人だとしか思えない妹のもう一つのおかしさだった。

「臨也くん……」

俺に肌を撫でられながら、は甘い声を出す。
聞き慣れた、というよりはむしろ、全く聞き慣れない声だ。
何度聞いても高揚するし、飽きることがない。

の身体は異常に気持ちが良い。
それこそ魔物や妖精のように。
外見はやや華奢でややグラマーであるというだけだったが、一度その身を貫いてから俺の性欲はだけを必要とすれば十分満たされる性質へと固定された。
実質貫くことのできない女同士だと効果は薄れるのか、双子の妹はそうでもないようだが。

「指を挿れるよ」

耳元で伝えてから実行する。
溢れるほどに濡れた感触に唇の端をつり上げながら、捲り上げたワンピースの下でそっと背中を撫でる。

は家族を他人だとしか思っていなかったが、その「家族」を何より愛していた。異常なほどに。
だから自分の身体を差し出したし、自分の身体を求めさせた。彼女にとって、それが何よりの愛情表現だったのだ。
普通の両親は残念ながらそれを拒絶した。
おかしな俺たちは当然のようにそれを受け入れた。

、少し痩せた気がするな」

腕を回した腰の感触がいつもと少し違う。
はわからない、というように首を傾げた。
ここのところ外に出ていることが多く、一緒に食事をする時間があまりなかったからきちんと食べていなかったのかもしれない。

「太っていた方がいい?」
「あとほんの少しだけね」

は従順に頷く。自分の愛を表現するために必要な自分の身体を、彼女は相手の好みにカスタマイズしていく。
さながら商売道具を大切にするように。

俺とは同居していた。
からすれば同棲かもしれないし、俺からすれば飼っているような認識だった。
生態観察の意味もあったが、愛玩としての意味合いの方が強い。
人間を愛していることとは別の意味で、俺はこの妹を愛している。

「挿れるよ」

枕元に重ねているゴムを手早く自分の性器に被せて、をやんわり押し倒す。
先ほどから紅潮していた芽依の顔は、俺の胸に倒れ込んだときからずっと微笑んだままだ。
一流の画家が描いた、未完成の天使のように美しくて歪だ。

に締め付けられて身体中が悦ぶのがわかる。
人間は慣れる生き物だ。
どんなに素晴らしい風景や料理も、繰り返し同じものを味わっていれば次第に感動は薄れる。
ところがの身体は、何度抱いても最初と変わらないほどの衝撃を感じさせた。

「デュラハンにリャナンシー……お前は一体何者なんだろうね、

俺がイった後に安心したように眠り始めたの頬を撫でる。
口から出た問いに答えを求めるつもりも、例えば闇医者に研究させるつもりもなかった。
が望むように、或いは俺が望むように、俺の手元に置いておけばいい。
時折双子の妹たちのもとへ行ってしまうのが少し苦々しいけれど。

とセックスをした翌日はいつもより身体が軽い。
今夜もよく眠ることができるだろう。
妹であり妹ではない妹にシーツを掛け直し、俺も隣で眠りに落ちた。


やわらかなメタファー   10.3.1